1.中東――「リベラルな国際秩序」から取り残された地域 米国の国際政治学者G・ジョン・アイケンベリーはその記念碑的著作『リベラルなリヴァイアサン』のなかで、第二次世界大戦以降、国際社会は米国主導の下で「リベラルな国際秩序」を段階的に発展・拡大させてきたと論じている【注1】。ここでいわれる「リベラルな国際秩序」とは、大まかにいえば、自由で民主主義的、そして開放的な市場経済システムを採用する諸国家が、国際制度や国際機関を通じて多国間協調や安全保障協力を実現しているような「規則に基づく(rules-based)」国際秩序を意味する。 そして、パワーのあらゆる側面で圧倒的な優位を誇る米国は、そうした秩序を主導する「リベラルな覇権国家(liberal hegemony)」としての役割を果たしてきたという。実際、冷戦終結を契機として、東アジア、東欧、南米諸国の多くが民主化を実現し、グローバルな国際経済