とても刺激的な映画を観(み)て、本を読んだ。たまたま同時期に公開/出版されたものにすぎないが、両者を並べて評してみたい。 映画は森達也監督の「FAKE」。佐村河内守氏を取材したドキュメンタリーだ。一昨年のゴーストライター騒動−−聴覚障害者で現代のベートーベンとも呼ばれた著名作曲家に、実はゴーストライターがいた。本人は楽譜も書けず、耳もよく聞こえると告発されたのだ。ワイドショーや週刊誌で袋叩(だた)きに遭い、マスヒステリーの様相を呈した。 騒動は完全に消費され、その後、佐村河内氏は沈黙を貫く。「FAKE」のカメラは、妻と猫と引きこもる自宅室内へと侵入、佐村河内氏の肉声を伝える。出演依頼に訪れるテレビ関係者の滑稽(こっけい)な態度、追及する外国人ジャーナリストとの緊迫したやりとり。「A」や「A2」でオウム真理教の内部から外へとカメラを向けた森監督の卓抜した手腕は存分に発揮される。だが、それだけ