世の中には、あてにならない言葉がある。 「行けたら行くわ」 「怒らないから言ってみなさい」 「テスト勉強してないわー」 「大丈夫、何もしないよ絶対に」 他にも、「全米No.1」や「免疫力」、「効果を実感したと答えました」なんて浮かぶ。これらは、言葉があてにならないというよりも、むしろ、このセリフを言う人を信じてはいけない。「行けたら行くわ」と言う奴は頭数に入れないし、「何もしない」は連れ込むための方便だ。 これに「正義」が入る。あてにならないのは言葉ではなく、ふりかざす人。前提なしで「正義」を振りまわす人が胡散臭い。主義に応じて伸び縮みし、いかようにもカスタマイズできるこの言葉を、それが使われることで流された血をきれいに忘れ、恥ずかしげも恐ろしげもなく使う人を、わたしは信じない。 この「正義」について、古代から現代までを振り返り、正義論の思想地図を検証したのが本書になる。プラトン、アリスト