20世紀言語学入門 現代思想の原点 加賀野井秀一 講談社現代新書 1995 編集:渡部佳延 協力:若桑毅・宇波彰・末広優子・赤間恵美・日高美南子 装幀:杉浦康平・赤崎正一 われわれは「言葉をもったサル」だ。また「言葉にふりまわされてきた動物」だ。赤ちゃんが幼児となり子供となるにあたっても、言葉は決定的な役割をもつと思われてきた。「うちの子はまだ喋らないので、心配なんです」と気にかける母親には何人も会った。けれどもその子が喋っていないからといって、その子の意識や気持ちに言葉が動いていないかどうかはわからない。長じて言葉が闊達になった子はたくさんいるし、蹲っていた言葉がのちに小説家やマンガ家の素質として開花した例も少なくない。 言葉がわれわれにもたらしているものは、外に洩れた光のグラデーションの具合からすればそうとうに広くて多様なのだろうが、影や闇になっている領域にも深く及んでいるとも思われる