音楽好きなら誰にでも何枚かの「夢のアルバム」があると思うのだが、私にとって「ガスター・デル・ソルのニューアルバム」は、まちがいなく「夢の一枚」だった。実際、過去に何度も想像したことがある。だが「夢」であるからには、けっして実現されることはないだろう、とも思っていたので、本作のリリースがアナウンスされた時には、ほんとうに驚いてしまった。 ガスター・デル・ソルは、デヴィッド・グラブスとジム・オルークのデュオ・ユニットである。デヴィッドはアメリカ、イリノイ州シカゴ生まれだが、ケンタッキー州のルイヴィルで10代半ばにしてハードコア・パンク・バンド、スクワロル・バイトのメンバーとして頭角を現した(それ以前にも複数のバンド経験がある)。その後、ワシントンDCに移ってバストロを結成、スティーヴ・アルビニ録音のソリッドなサウンドで注目された。バストロは当時のポスト・ハードコア・シーンの重要バンドのひとつと
Interview by 平井有太(マン) 2016年9月にRiddimOnlineに掲載された記事です。 『建設的』から30周年、『再建設的』をリリース。さらに自身のコネクションを縦横無尽に体現する「いとうせいこうフェス」の開催。一筋縄ではいかない、いとうせいこうにロングインタヴュー。 ●『業界くん物語』のアルバムが85年、同年にはハードコアボーイズ「俺ら東京さ行ぐだ」(ほうらいわんこっちゃねえMIX)もあります。ですので、「30周年」と言った時、せいこうさんにとってスタートは『建設的』(86年)だったのかな?と。 いとうせいこう( 以下、S):今オレが入ってる事務所の社長が、当時『建設的』のディレクターだったの。それで「いとう、30年だぞ」とか言い始めて、だからオレがちゃんと数えてるわけじゃないんだよね。 ●「東京ブロンクス」という言葉は、大きなキーワードです。同時に大都会「東京」と
Neon Potato(以下、ポテト):今回、ついに和風スナックお兄ちゃんのミックステープが出るというコトで 花吹雪レモン(以下、レモン):そもそも和風スナックお兄ちゃんとは何ぞや?的な部分をね、ミックステープを聴いてくれる皆様に伝えていければ、というコトで話していきたいと思います ポテト:はい レモン:元々は…四年前でしたっけ?最初に和風スナックお兄ちゃんという名前でイベントやったのって ポテト:2017か2018か レモン:代々木上原の終日ONEで和モノ、国産の曲だけでDJするイベントをやろうとポテト氏から誘われて、めっちゃ面白そうと思ってボクも乗っかって ポテト:そう、最初はイベントのタイトルだったんですよね。それで和風スナックお兄ちゃんを終日ONEで2回やってみたところ… レモン:イベントに遊びに来てくれた友達が楽しんでくれたってのももちろんだけど、自分達的にその感触が凄く良かった
カルチャー みんなのレコード買い付け物語。/『KIKI RECORD』店主・馬場正道 2023年6月4日 2人の老婆が営む中国雑貨屋。 2階にインドネシアのお宝が! 値付けをごまかそうとしたら……。 インドネシアは東南アジアで最初に西洋の文化が混ざり合った国で、音楽もラテンやジャズの要素があって洗練されてるんです。僕はもともと日本の1950年代の踊れる曲が好きで、海外にも似たような音楽があるんじゃないかと探しているうちに、インドネシアの古いレコードにそれと通じる良さがあることに気がついたんです。 初めての買い付けに行ったのは17年前。ユーミンも歌にした「スラバヤ通り」という骨董品店通りに何軒かあったレコード屋で、何もわからないままジャケだけで判断して大量に買いました。僕の好みな音楽は1割くらいしかなかった。でも、その1割がすごくよかった。次は3か月かけて、レコード屋さんの端から端まで聴かせ
50年代インドネシアの洗練されたジャズを、CDで 小西康陽の命名のもと、8月に発売されたマルシアル・ソラール・トリオ『Martial Solal “Trio”』の世界初のCD化を皮切りに、新レーベル 〈Série Teorema (セリエ・テオレマ)〉が始動した。 主宰者は『レディメイド未来の音楽シリーズ』などのマスタリングを手がけるマスタリングエンジニアの長野ビイト。毎回さまざまなゲストによる監修で、ジャズやワールドミュージック、ロックンロールなどのコンピレーションを発表するとのこと。 9月には、アジア各国を放浪し知られざるレコードを集めるDJ兼レコード店主の馬場正道が選曲、1950年代のインドネシアのSP盤をまとめた『KENANG KENANGAN』が発売された。 〈Série Teorema〉オーナーの長野ビイトという人は、埼玉・川越にあるレコード店で、再発レーベルも運営する芽瑠璃堂
サンO))) のスティーヴン・オマリーが〈editions Mego〉傘下で主宰する〈Ideologic Organ〉からリリースされたシンガーソングライター朝生愛の新作『The Faintest Hint』を繰り返し聴いている。「音楽」と「音の間」、そして「個」と「無」のあいだを揺れ動くような声とギターが心地良い。 オマリーと Boris の Atsuo がプロデュースを手掛け、ミックスとマスタリングを中村宗一郎が担当しているのだから、サウンドも悪いはずがない。名盤という言葉すら出てしまいそうなほどである。ちなみに Boris も “Scene”、“Sight” の2曲に参加している。 〈Ideologic Organ〉からのリリースは本作が2014年の『Lone』から続いて2作目だが、日本の〈Pedal Records〉から『Lavender Edition』(2004)、『Umeru
REVIEWS RENAISSANCE Beyoncé (Sony) by TSUYOSHI KIZU MINAKO IKESHIRO September 02, 2022 Facebook Twitter パンデミックが訪れた2020年、自分はひとがどこで愛を交わすのかを考えていた。いや、というより、フリー・セックスというコンセプトはどうなってしまうのだろうと危惧していた。セックスに対する考え方が成熟している国では、政府筋がいまは特定のセックス・パートナーを設けよと言っている例もあったそうで、なるほどそうだよねと思ういっぽう、ワン・ナイト・スタンドだって複数のセックス相手をキープすることだってそれぞれの性の楽しみ方なのであって、本来であればひとからジャッジされたり禁じられたりするものではない。それに、1970年代ゲイやトランスジェンダーに好まれたディスコ・クラブには大勢がセックス相手を見
REVIEWS DAMN. Kendrick Lamar (Interscope) by AKIHIRO AOYAMA MASAAKI KOBAYASHI April 28, 2017 Facebook Twitter FIND IT AT :iTunes Store ここ数年の八面六臂の活躍で、ケンドリック・ラマーの新作に対する期待値は上がりきっていた。共にコンセプチュアルなテーマを掲げた2012年の『グッド・キッド・マッド・シティ』、2015年の『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』の二作が続けて批評メディアの年間ベストを総なめにし、昨年リリースした8曲入りの未発表曲集『アンタイトルド・アンマスタード』も全米チャート1位を記録。“オーライト”は〈ブラック・ライヴズ・マター〉ムーヴメントのアンセムとなり、同曲も披露された2016年グラミー授賞式では、警官による黒人青年の抑圧が続く現代と奴隷制時
ケンドリック・ラマーは常に音楽を通してストーリーを語り、口から出る言葉と視覚的な伝達方法の橋渡しをしてきた。しかしながら、聴き手に辛抱強く耳を傾け、答えを探り出しながら理解することを要求したのが『DAMN.』である。 『DAMN.』が発売されたのは、爆発寸前のような政治的な緊張が続いていた2017年の4月14日だった。叩きつけるような、見事な出しかただったのだ。ラマーはアルバムを通して、壊滅的な時代において人々が自分を抑え、反省し、理想を捨てないように闘う必要性を教え込んでいる。 <関連記事> ・ケンドリック・ラマー『To Pimp A Butterfly』を新たな視点で読み解く ・ケンドリック・ラマーのコンセプト・アルバム『good kid, m.A.A.d city』 ・ヒップホップと政治問題:グランドマスター・フラッシュからケンドリックまで カテゴリーとしてはコンシャスな作品 『DA
2011年に14歳でデビューを果たし、その翌年2012年に発表された"I Don't Like"でUSのヒップホップシーンに衝撃を与えたChief Keef。全米最悪の治安といわれるシカゴ南部出身のChief Keefやその仲間たちの楽曲はドリルと呼ばれ、UKやNYなどにも派生していった。シカゴを離れたChief Keef自身はドリルサウンドには固執せずに、ユニークで独創的なチャレンジを続けており、無事今年で26歳を迎えた。 今回一躍その名を轟かせた『Back from the Dead』の10周年を機に、Chief Keefのこれまでの活動を追うテキストをzcayに寄稿してもらった。 文:zcay Young Thug、Future、Earl SweatshirtにLil B。この10年でラップを先に進めた何人かのアーティスト達と並んで必ず名前を挙げなければいけない存在がChief Ke
灰野敬二さん(以下、敬称略)の伝記本執筆のためにおこなってきたインタヴューの中から、編集前の素の対話を公開するシリーズの3回目。今回は、灰野の初の電子音楽作品『天乃川』についての回想。『天乃川』は宇川直宏が主宰するインディ・レーベル〈Mom'n'DaD〉から93年にリリースされたソロ・アルバムだが、実際に録音されたのは73年だった。流行とは無関係のあの特異な作品がどのようにして作られたのか、そして制作から20年の時を経て世に出るまでの経緯について、語ってもらった。 ■宇川くんの〈Mom'n'DaD〉から出た『天乃川』は73年のライヴ音源ですよね。 『天乃川』 灰野敬二(以下、灰野):ロスト・アラーフがまだぎりぎり続いていた頃、京都でやったソロ・ライヴの記録だね。機材を全部一人で持って行って大変だった。昔は両方の手でそれぞれ20キロずつの荷物を現場まで持っていってたからね。ある時なんか、右の
1960年代のジョン・コルトレーン、1970年代のファラオ・サンダースと、ジャズ・サックスの巨星たちの系譜を受け継ぐカマシ・ワシントン。もはや21世紀の最重要サックス奏者へと上り詰めた感のあるカマシは、2015年の『The Epic』で我々の前に鮮烈な印象を残し、2018年の『Heaven and Earth』で今後も朽ちることのない金字塔を打ち立てた。しかし、『Heaven and Earth』以降はしばらく作品が止まってしまう。もちろん音楽活動はおこなっていて、2020年にミシェル・オバマのドキュメンタリー映画『Becoming』のサントラを担当し、ロバート・グラスパー、テラス・マーティン、ナインス・ワンダーと組んだプロジェクトのディナー・パーティーで2枚のアルバムを作り、2021年にはメタリカのカヴァー・プロジェクトであるメタリカ・ブラックリストに参加して “My Friend of
躍動する肉体を通して己の精神を表現する強靭な〈ダンス・アルバム〉――ジャズをプログレッシヴに革新してきたカリスマが、豪華なゲスト陣を招聘した恐れ知らずの新作で見据える新たな地平とは? 強いリズムに包まれるような 21世紀のもっとも重要なジャズ・サックス奏者のひとりであるカマシ・ワシントン。2018年の『Heaven And Earth』以降は、ミシェル・オバマの伝記映画「Becoming」のサントラや、ロバート・グラスパーやテラス・マーティンらとのディナー・パーティーで2枚のアルバムを手掛け、そして6年ぶりのニュー・アルバム『Fearless Movement』と共に帰ってきた。サンダーキャット、テラス・マーティン、ブランドン・コールマンら旧知の仲間に加え、アウトキャストのアンドレ3000、BJ・ザ・シカゴ・キッド、Dスモーク、コースト・コントラのタジとラス・オースティンなど、ヒップホップ
カマシ・ワシントンの最新アルバム『Fearless Movement』は、これまでの延長線上にありつつ、明らかに趣が異なる作品でもある。愛する娘が生まれ、彼女と暮らす中で感じたことがインスピレーションになっていたり、概念としての「ダンスミュージック」をテーマにしていたりするのもそうだし、過去の作品にあったスケールの大きさやフィクション的な世界観とは違い、現実(≒生活)に根を下ろした視点から生まれた等身大で身近に感じられるサウンドになったようにも感じられる。 たとえば、これまでは壮大な世界観をクワイアやオーケストラと共に表現していたが、今回はほぼ自身のレギュラー・バンドで構成しており、外から加わっているのはほとんどがボーカリストやラッパーだ(カマシはこれまで、声にまつわる表現はバンドメンバーのパトリス・クィンに任せていた)。ここでは様々な声がそれぞれのメッセージを語っているのだが、その言葉か
Interview / Post 石橋英子×濱口竜介インタビュー「“都市、ゴミ、そして死”というテーマを模索して」 2024.3.15up 映画『ドライブ・マイ・カー』(2021)で意気投合した石橋英子と濱口竜介監督によるプロジェクト『GIFT』。石橋から濱口への映像制作のオファーをきっかけにサイレント映像が完成し、第80回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を受賞した映画『悪は存在しない』を誕生させるに至る。直近では3月19日に東京・PARCO劇場で行われる、濱口の映像と石橋の即興ライブ演奏による「一回きり」のライブ・パフォーマンスであり、シアターピースとして続いていく『GIFT』の発案者である二人が、その道のりを振り返る。 『ドライブ・マイ・カー』から始まった縁 ──シアターピースとなったプロジェクト『GIFT』の成り立ちからお伺いしてもいいですか? 2021年の11月、石橋さんと濱口さん
映画『ドライブ・マイ・カー』に続き、『悪は存在しない』と『GIFT』でも濱口竜介の監督作品の映画音楽を担当した石橋英子。シンガーソングライターで作曲家でもある彼女は、ジャンルの垣根を身軽に乗り越えて活躍する。そんな石橋に、英「ガーディアン」紙が取材した。 ヒッチコックとハーマンにせよ、スピルバーグとウィリアムズにせよ、もっと近年でいえばヴィルヌーヴとジマーにせよ、映画監督とそのお気に入りの作曲家が繰り返しタッグを組んで輝かしい成果をあげる例は珍しくない。 最近では、濱口竜介と石橋英子の事例が目立っている。石橋が担当した映画『ドライブ・マイ・カー』のジャズ・ポップなテーマ曲は非常に素晴らしく(哀愁と寛大な心を想起させ、アコーディオンの調べにはややフランスを思わせるふしもある)、この日本映画がカンヌ国際映画祭で4冠に輝き、さらには2022年のアカデミー賞作品賞ノミネートおよび国際長編映画賞受賞
奇跡だ、と何度もうれしそうに、ミュージシャンの石橋英子は口にした。自身のライブパフォーマンスと共に上映する映像を、映画監督・濱口竜介にオファー。『GIFT』として企画が立ち上がっていくなかで、映画『悪は存在しない』も成立──その「奇跡」的なプロセスには、カルチャーを形作る私たちへの問いかけも潜んでいるように見える。『GIFT』と『悪は存在しない』に登場する、樹々の奥に潜む野生の鹿のごとく。 声や音もつき、石橋が音楽を手がけた映画『悪は存在しない』は「第80回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞」を受賞し、待望の全国公開を4月26日に控えている。『GIFT』もまた国内外で上演され、サイレント映画と拮抗する石橋の圧巻の演奏が、オーディエンスを未体験のゾーンへと導いて反響を呼んでいる。次々と変容していく、そのプロセスの最中に、石橋に話を聞いた。 失われた風景への思いがきっかけ。濱口竜介監督との「旅」を決
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