今月3日、作家ソルジェニーツィンが89歳で没した。文豪以外で私が初めて知ったロシア人作家がソルジェニーツィンだった。ノーベル文学賞を受賞したにも係らず、米国に亡命した事件は、子供時代の私にも異様な印象を与えた。そのため学生時代、彼の代表作のひとつ『収容所群島』を見たことがある。 だが、『収容所群島』は悪名高きラーゲリ(強制収容所)の実態を描いた本で、あまりにも暗いため、文庫本第1巻目半ばで挫折してしまった。後に知ったことだが、悲惨な内容ゆえ、読むのを途中で止めた人が少なくなかったそうだ。翻訳者の木村浩氏の解説によれば、1人でも多くの者に広く読んでもらいたいため、著者からの希望で文庫本となって出版されたという。その文庫本の1巻目の裏表紙には著者の3枚の顔写真が映っていた。逮捕前と逮捕後まもなく、数年経た収容所生活での写真であり、同じ人物がこれほど顔の表情が変化するものかと驚いた。逮捕前の端正