子どもを見れば,その家庭の姿が窺い知れるというものだ.親は子の鑑であると同時に,子は家庭の姿を映し出す鑑なのである.そして,心のよりどころとなるべき家庭から不当な扱いを受けている子どもがいるとすれば,その子にとっての安全基地は,何ものかによって奪われているとみなければならない.その外敵ならぬ内敵と毎日対峙しなければならない子どもの悲嘆は,彼にとって絶望的なものであることだろう.母親の口汚い痛罵に耐え,自分の失敗を面白がって笑いものにする機会を常に窺うきょうだいに隙をみせぬよう注意を払い,何事にも眉をしかめるだけで無言な父親に助けを求めても詮はない.それを知りながら,自分の価値を否定され続ける状況をしのぐ日々.そのような日常に子どもは何を思いどう過ごしているのか.世界を眺める子どもの目はどういったものなのか. ジュール・ルナール(Jules Renard)は,もともと文学活動の表現を詩に求め
![『にんじん』ジュール・ルナール](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/8f0d9e1e262a82364560c4bf248c0c0c4e06f790/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fblogimg.goo.ne.jp%2Fuser_image%2F44%2F3b%2Fdc41a599010748c4bcf06057c97f9c65.png)