公共と批判 加藤泰史 二〇一八年の五月に神戸大学で日本哲学会第七七回大会が三日間にわたって開催された.初日の夕刻に「哲学教育ワークショップ」が「高等学校新科目「公共」を考える―哲学・倫理学を生かすために」という題目の元に企画され,一ノ瀬正樹の要領を得た導入の後に四人の高校教員による提題と全体討論が行われた.四人の提題は「新学習指導要領」の分析とそれに基づいた哲学教育の生かし方から新科目「公共」への違和感や「新学習指導要領」に対する批判まで多様な内容に富んだ充実した提題であった.どの発表も傾聴に値する内容であったが,私には特に新科目「公共」に批判的な発表が印象に残った.討論の最後にはこの発表に対して大学教員から否定的な意見も述べられたが,私にとってはむしろ共感できる論点が多く含まれていた. その発表は「新学習指導要領」の「公民」の項目にも「倫理」の項目にも「批判」という語が登場しないとの指摘