道徳心理学や進化人類学によれば、私たち人間の本性には、近似性と類似性に基づいて共感能力を発揮する「近接バイアス」などの歓迎されざる偏向がある(De Waal 2008, Maibom 2014)。そのため、私たちは共感しやすいものに共感するきらいがあり、これを逆手に取られると、たちまち感情で釣られる羽目になる。感情の動員は、いまや政治戦略の主流だ。 しかし、こうした戦略に対して「冷静に考える」という仕方で、つまり理性で応戦するのは実に心許ない。なぜなら、私たちを取り巻く情報環境は、理性が首尾よく働くための基礎的な条件、つまり、一つの事柄を効果的に取り扱うための「アテンション(注意)」を、分割し、消費してしまうからである。感情の動員や理性の失敗に通底するのは、アテンションを散逸させる情報環境であるように思われる。そこで、本稿ではこの点を中心に、目下の情報環境について論じてみたい。 「メディア