→紀伊國屋ウェブストアで購入 「官尊民卑と闘った男」 渋沢栄一には以前から興味を持っていたが、なかなかその人となりを詳しく知る機会はなかった。20年ほど前に古牧温泉を訪れたときに、そこに移設されていた旧渋沢邸を見たことがあっただけだ。書店で『渋沢栄一』を見つけたときに、著者が鹿島茂であることに驚いた。種々の雑誌等の洒脱なエッセイでお目にかかる仏文学者が、なぜ渋沢の伝記を書いたのかと疑問に思って入手した。 どんな人にも、大きく人生を変える出来事がある。渋沢にとってそれはまず郷里の血洗島村で、父の名代として代官に会ったときに受けた屈辱である。御用金を頼まれた方なのに、頼んだ方が渋沢の人格を全く認めずに権柄ずくめの態度をとった。当時としてはこれはむしろ当然のことなのだが、それに対して憤りを感じるところに、鹿島は渋沢の「新人類」を感じる。 もう一つは、幕末にパリ万博へ赴く徳川昭武のお供として、パリ