◇池内紀(おさむ)・著 (幻戯書房・6090円) ◇象徴版画と装幀美の「温和な改革者」を追って えっ、これが版画か、と一瞬驚く。 本書にカラーで収められた何点かの恩地孝四郎の版画は、小林清親、橋口五葉、川瀬巴水といった、浮世絵の影響を残す、先行する世代の版画とは明らかに異っている。 「近代」を感じさせる。象徴版画であり、カンディンスキーやクレーの絵の隣りに並べてもおかしくはない。 恩地孝四郎(明治二十四年−昭和三十年)は版画の近代化に力があった。また、装幀(そうてい)、詩でも活躍した。版画の代表作「『氷島』の著者(萩原朔太郎像)」(昭和十八年)は前年に死去した詩人への挽歌(ばんか)のような作品として名高い。装幀の仕事では、朔太郎『月に吠える』(大正六年)、室生犀星『抒情小曲集』(同七年)などが知られる。 美術全般に関わった人だが、今日、その名はかつてほど高くはない。本書は、恩地孝四郎のはじ