Mag X 連載「山形浩生の世界を読み解く叡智:結局、そういうことだ」 (2010年) 2010年1月号 連載第9回:衣服と文化——スーツのお値段について 人が自分の所属する文化と関わる方法は無数にある。人間として生きる行為のすべてが、そうした営みの一部だともいえる。人はあらゆることに、単なる実用性を超えた意味づけを行うし、そのためには追加のコストを大量に支払うことも厭わない。 先日他界したレヴィ=ストロースの大作『神話論理』は、食べ物とその料理についての本だった。食べ物は、そこらの草や木の実を生でかじるだけでも本来はかまわないはずだ。でも、人間はそれを敢えて料理するし、それは人間にとっては自然と文化、野蛮と人間とを区別する大きな意味を持つ行為となる。だからこそ、物の食べ方や調理方法には、実に多くのタブーや、意味がなさそうなルールがあれこれついてまわるのだ。 服もそうだ。衣服は単に保温や保