私は,令状事務を担当する裁判官です。 毎日,検察庁から被疑者が勾留質問を受けるため,裁判所にやってきます。私は,彼らに被疑事実の要旨を告げ,その弁解を聴いて,勾留するかどうかを判断しています。勿論,勾留質問をする前に,一件記録を検討し,嫌疑の相当性や勾留要件,勾留の必要性,逮捕手続の適法性などを審査するわけですが,勾留請求の数からするとそれほど時間を掛けるわけにもいかず,机上に記録を広げ,必死に記録にかじりつき,気がつくと一日が終わっているという状態です。夕方になると頭の芯がしびれてくるような感じになりますが,まだ勾留質問を受けるために残っている被疑者や捜査員がいますので,帰宅するわけにはいかないのです。 その日も朝から被疑者勾留事件を処理し,疲れ切って家に帰り,夕食を取っていました。 食卓の前に座った妻が何時になく明るい声で「今日,思い切って病院に行って良かったわー」と話しかけてきたので