(前回から読む) 10月30日、韓国の大法院(最高裁判所)は新日鉄住金に戦時中の韓国人徴用工4人に対する賠償金を支払うよう言い渡した。国交正常化の際の基本的な合意を覆すもので、日韓関係は「無法」状態に突入した。 日本は国際司法裁判所に提訴も 韓国・最高裁は新日鉄住金に対し、元・徴用工に1人当たり1億ウォン(約990万円)を支払うよう命じた。 原告側弁護士は資産差し押さえに動くと見られるが、新日鉄住金の韓国内での資産では不足する可能性が高い。そこで日本などで差し押さえを提訴する模様だ。 この判決の及ぼす影響は極めて大きい。新日鉄住金以外にも三菱重工、不二越、横浜ゴムなどの日本企業を1000人近い元・徴用工が訴えている(日経「賠償なら日韓企業のビジネスに影響も 徴用工裁判」参照)。それらの裁判でも日本企業が敗訴する可能性が高まった。 外交的な衝撃も計り知れない。この判決は1965年の国交正常化
(前回から読む) 文在寅(ムン・ジェイン)大統領が欧州を訪問、主要国首脳に北朝鮮に対する制裁の緩和を求めた。だが完全に無視され、米韓関係をますます悪化させただけだった。 欧州歴訪は大失敗 鈴置:文在寅大統領の訪欧が大失敗に終わりました。10月13日から21日までフランス、イタリア、ベルギー、デンマークを歴訪。19日にはブリュッセルで開かれたASEM(アジア欧州会合)首脳会議に出席しました。 仏、英、独などの首脳と会談しては強引な理屈をこねて北朝鮮への制裁をやめさせようとしたのです。ハンギョレの「文大統領、英独首脳と会談し『対北制裁の緩和』を公論化」(10月20日、日本語版)から大統領の発言を拾います。 (10月15日、マクロン仏大統領に対し)少なくとも北朝鮮の非核化が後戻りできない段階まで進んだと判断される場合は、国連制裁の緩和を通じて、北朝鮮の非核化をさらに促さなければならない。安保理の
(前回から読む) 米メディアが文在寅(ムン・ジェイン)大統領を「金正恩(キム・ジョンウン)の首席報道官」と報じた。訪米中に北朝鮮の核武装を擁護する詭弁を繰り返したため「北の使い走り」と見切られたのだ。 金正恩を称賛する報道官 鈴置:9月下旬に文在寅大統領がニューヨークを訪問、トランプ(Donald Trump)大統領と会談したほか、国連総会で演説しました。さらにテレビの取材や、外交専門家の会合で質問に答えました。 今回の訪米は9月18―20日に開いた平壌での南北首脳会談の結果を踏まえ、米国と北朝鮮の間を取り持つのが狙いでした。でも、完全な裏目に出ました。米国での質疑応答のたびに「文在寅は金正恩の代弁人だ」との印象を深めてしまったのです。 ブルームバーグ(Bloomberg)は「文在寅は金正恩の首席報道官」との見出しで報じました。「South Korean’s Moon Becomes Ki
1997年12月、通貨危機に見舞われた韓国・ソウルで、株価ボード前に座り込んで疲れた表情を見せる投資家の男性(写真:ロイター/アフロ) (前回から読む) 愛知淑徳大学の真田幸光教授に朝鮮半島の行方を聞いた。「米国は韓国を通貨でお仕置きする可能性が出てきた」と真田教授は読む。司会は日経ビジネスの常陸佐矢佳・副編集長。 真田 幸光(さなだ・ゆきみつ) 愛知淑徳大学ビジネス学部・研究科教授/1957年東京生まれ。慶応義塾大学法学部卒。81年、東京銀行入行。韓国・延世大学留学を経てソウル、香港に勤務。97年にドレスナー銀行、98年に愛知淑徳大学に移った。97年のアジア通貨危機当時はソウルと東京で活躍。2008年の韓国の通貨危機の際には、97年危機の経験と欧米金融界に豊富な人脈を生かし「米国のスワップだけでウォン売りは止まらない」といち早く見切った。 トランプ(Donald Trump)政権は北朝鮮
韓国は米国製原潜の導入を検討する。写真は2017年4月に釜山に入港した米原潜「ミシガン」(写真:YONHAP NEWS/アフロ) 大国の横暴には「民族の核」で 前回は、韓国は「北朝鮮の核の傘」に入るつもりだ、とのくだりで終わりました。 鈴置:それを明確に書いた韓国人がいます。朝鮮日報の池海範(チ・ヘボム)記者です。同社の東北アジア研究所所長でもあります。記事「『北朝鮮の核は民族の資産』という幻想」(8月8日、韓国語版)の書き出しを訳します。 最近、ある小さな集まりで左派陣営の人がこう語った。「統一後を考えれば北朝鮮の完全な非核化よりは一部の核を残した方がずっとよい。我が民族が強大国の横暴を牽制するのには、核を持つことが格段に有利だ」。 彼は「南の経済力と北の核を合わせば世の中に怖いものはない。我々の世代がこの偉業を成し遂げようではないか」とも語った。 南北が平和共存に向け協力する時代に入る
今頃、何を言っているのでしょうか。 鈴置:確かに「今頃」です。シンガポールでの米朝首脳会談が決まる過程で、トランプ大統領は韓国への核の傘の提供の中止――つまり、米韓同盟破棄を示唆しています(「『米韓同盟廃棄』カードを切ったトランプ」参照)。 6月12日に開いた米朝首脳会談でも、米韓合同軍事演習に加え、在韓米軍の撤収にまで言及しました(「米中貿易戦争のゴングに乗じた北朝鮮の『強気』」参照)。 「外」から見れば、韓国が米国から見捨てられたなと容易に分かります。ただ、韓国人はその現実を認めたくなかったのです。だから「今頃」言い出したのです。 続きを読む 金正恩を助ける文在寅 金正恩を助ける文在寅 それにしても、米朝会談からこの寄稿までに50日もたっています。 鈴置:さすがに韓国人も「見捨てられ」の可能性を無視できなくなったのでしょう。非核化に進展がないのに、文在寅(ムン・ジェイン)政権が北朝鮮と
7月8日に会談したポンペオ米国務長官と河野太郎外相、康京和韓国外相。北の攻勢に押される米国に、日本、韓国は果たして……。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ) あいまいな「安全の保証」 鈴置:北朝鮮の非核化を話し合いで解決するというトランプ(Donald Trump)大統領。交渉役のポンペオ(Mike Pompeo)国務長官とともに「核を手放せば経済発展を全面的にバックアップする」とニンジンを見せています。 しかし、北朝鮮にとってそのニンジンだけではとても足りません。肝心の安全が確保できるのか、確信が持てないからです。 シンガポールで結んだ米朝合意で米国は「北朝鮮の安全を保証する」と約束しました。 鈴置:確かに米朝共同声明で、非核化の見返りに「トランプ大統領は北朝鮮の安全を保証する」と謳いました。以下です。 President Trump committed to provide secur
韓国も知らなかった演習中止 鈴置:韓国の保守系メディアは6月12日の米朝首脳会談を極めて悲観的に報じました。トランプ(Donald Trump)大統領が会談後の会見で米韓合同軍事演習の中断と在韓米軍の撤収に言及したからです。 いずれも米韓同盟の弱体化につながります(「から騒ぎに終わった米朝首脳会談」参照)。大統領は在韓米軍撤収については「将来の話」として言及しましたが、演習中断は直ちに現実のものとなりました(「米朝首脳会談後の動き」参照)。 朝鮮日報は「合同演習中断、駐韓米軍撤収に言及したトランプ…安保ショック広がる」(6月12日、韓国語版)との見出しで速報しました。 韓国政府も演習中止は事前に知らされていませんでした。聯合ニュースは「トランプ氏の韓米軍事演習中止発言が波紋 韓国国防部『当惑』」(6月12日、日本語版)との見出しで伝えました。 米韓同盟が機能不全に 保守系紙は一斉に社説で米
(前回から読む) 5月26日午後、金正恩(キム・ジョンウン)委員長と文在寅(ムン・ジェイン)大統領が板門店の北側施設で突然、会談した。トランプ(Donald Trump)大統領が軍事的な圧迫を強めるのに対抗、南北はスクラムを組んで見せたのだ。 仲介を誇った文在寅 鈴置:文在寅大統領は5月27日午前10時から青瓦台(韓国大統領府)で会見し、前日の南北首脳会談に関し説明しました。 「2次南北首脳会談 結果発表文」(5月27日、韓国語)から、大統領の発言のうち、米朝首脳会談に関連する部分を引用します。 ・私は先週の韓米首脳会談の結果を説明した。金委員長が完全な非核化を決断し実現した場合、トランプ大統領には北朝鮮との敵対関係の終息と、経済協力に対する確かな意思があるとの点を伝えた。 ・金正恩委員長は板門店宣言に続き再度、朝鮮半島の完全な非核化の意思を明らかにされた。 ・(さらに)朝米首脳会談の成功
核放棄を強要するな 5月16日、北朝鮮が米朝首脳会談を開かない、と言い出しました。 鈴置:北朝鮮は「米国が一方的に核放棄を強要するなら、首脳会談は再検討するしかない」との金桂官(キム・ゲグァン)第1外務次官名義の談話を発表しました。 北朝鮮の対外宣伝サイト「わが民族同士」の「朝鮮外務省第1次官が談話を発表 」(5月17日、日本語版)で全文を読めます。 なお同じ5月16日未明に、北朝鮮は同日に予定されていた南北閣僚級会談もキャンセルしました。5月11日から始まっていた米韓合同の空軍演習「マックス・サンダー(Max Thunder)」が自分に圧迫を加えているとの理由をあげました。 これを通告したのが朝鮮中央通信の「朝鮮中央通信社が朝鮮に反対する大規模の連合空中訓練を行った米国と南朝鮮当局を糾弾」(5月17日、日本語版)という記事です。 記事の最後には「米国も、南朝鮮当局と共に繰り広げている挑発
(前回から読む) 史上初の米朝首脳会談が6月12日、シンガポールで開かれることが決まった。トランプ(Donald Trump)大統領が5月10日、発表した。北朝鮮の核問題が対話で解決するのか、あるいは軍事的な衝突につながるかの分かれ道となる。 リビア方式で押すトランプ 米朝首脳会談はどんな結果を生むでしょうか。 鈴置:大きく分けて3つの展開を予想できます。「米朝首脳会談、3つのシナリオ」をご覧下さい。首脳会談でトランプ大統領が金正恩(キム・ジョンウン)委員長に対し「つべこべ言わずにまず、非核化しろ。見返りはその後だ」と要求するのは確実です。 いわゆる「リビア方式」です。2003年12月19日にカダフィ大佐が非核化を受け入れると、米英の情報機関は直ちにリビアに入り、核関連施設を米国に向け運び出しました。翌2004年3月には全ての作業を終えるという早業でした。 トランプ大統領の要求に金正恩委員
平和を開く板門店宣言 4月27日に板門店で開かれた南北首脳会談。韓国紙の反応は? 鈴置:左派系紙は手放しで褒めあげました。ハンギョレの社説の見出しは「板門店の春、平和・繁栄の時代開く」(4月28日、日本語版)。韓国語版も全く同じです。 ハンギョレは文在寅(ムン・ジェイン)政権に近く、北朝鮮との関係改善を重視する新聞です。日本語版からポイントを引用します。 両首脳は分断線を手を握って共に越え、また乗り越えた。全世界が見守る中で、予定になかったパフォーマンスを通じて分断を越えて平和と統一に進もうという南北の意志を明確に示してくれた。 両首脳は「板門店宣言」を通じて、朝鮮半島にこれ以上戦争のない新しい平和の時代が開かれたことを明らかにした。 今回の首脳会談は11年ぶりに再び開かれた南北首脳会談という意味を越え、朝鮮半島の平和定着に劇的な転換点となる事件として記録されるに値する。 ……と、まずは「
世界を欺くペテン劇 北朝鮮が核・ミサイル実験の中断を表明しました。 鈴置: 4月20日、朝鮮労働党が中央委員会総会を開き採択しました。もちろん、ペテン――世界を欺く偽装平和攻勢です。 総会ではまず、金正恩(キム・ジョンウン)委員長が「我が党の課題について」を報告。討議を経て「決定書」が採択されました。そのうち、核に関連する項目は4つです。 北朝鮮のサイト「我が民族同士」の「金正恩委員長の指導の下に朝鮮労働党中央委員会第7期第3回総会が行われる」(4月21日、日本語版)から要約して引用します。 核兵器開発を完了したと宣言する。 核実験とICBM(大陸間弾道弾)の発射実験を2018年4月21日以降は中止し、核実験場を廃棄する。 世界的な核軍縮のために、核実験の全面中止の国際的な努力に合流する。 威嚇されない限り核兵器を絶対に使用しないし、いかなる場合も核兵器・技術を移転しない。 ②の「核・ミサ
存亡の危機に立つ金正恩体制 鈴置:4月9日、トランプ(Donald Trump)大統領は「5月か6月初めに米朝首脳会談を開く」と語りました。でも、金正恩(キム・ジョンウン)委員長がそれに応じるのか、疑問符が付いています。 米朝首脳会談でトランプ大統領が「直ちに核を放棄するか、しないのか」と厳しく問い詰めるのは確実です。 金正恩委員長がへ理屈をこねて時間稼ぎに出ようものなら、米国は「これだけ手を尽くしても外交的には解決できなかった」と宣言し、軍事攻撃に乗り出す可能性が高い。 米朝首脳会談を開けば、北朝鮮は空爆されるか、核を即時に廃棄するかの2択に直面するわけです。どちらに転んでも金正恩体制は存亡の危機に立ちます。 4月14日未明(現地時間)のシリア空爆で「明日は我が身」と北朝鮮の指導部は肝を冷やしたことでしょう。そんな墓穴を掘る会談に金正恩氏が応じるのか――。米国や日本の朝鮮半島問題の専門家
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