これまで見てきたドイツ語正書法は現代ドイツ語を文字によって体系的に表そうとする規則の集まりである。その意味で、不統一があるにしても、規則と呼ぶことができる。しかし、これをさらに乱すもののひとつに歴史的綴りがある。ドイツ語に限らず、あらゆる言語は時代とともに絶えず変化するものであるから、発音も変化する。しかし、文字表記されたものは長い間、慣れ親しんでいるから、発音を表しているというよりは表語的なものと感じられ、それを変えるのはどうしても抵抗感が生じる。 例えば、[f]はfで表すのが普通だが、Vater「父親」、vier「4」、von「…の」、Frevel「不法行為」などの語ではvで表されている。これらは中世以来の書法を守っているのである。また、現代語のSchnee「雪」、schlafen「眠っている」、schmal「細い」などは中世語ではsnê, slâfen, smalであり、語頭のsは[
![108 耳の文化と目の文化(25)―正書法を乱すもの(1)― | クラウン独和辞典 ―編集こぼれ話―(『クラウン独和辞典第4版』編修委員 新田 春夫) | 三省堂 ことばのコラム](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/27348b443f1ccd4c6510a44ed8ccb2abe6851f3e/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fdictionary.sanseido-publ.co.jp%2Fwordpress%2Fwp-content%2Fuploads%2Fogp.png)