言語学をやっていてよかったと思うことはいくつかある。まずそのためにやったのではないが、言語学で得た知識が外国語の習得に役立ったことである。言語の語彙がどのような分布をなしているかを知るのは習得のための近道である。そこに山があるから登るといったのと同じように、そこに言語があるから、その言語を理解したいと思うし、理解し得たときの喜びは大きい。文法の仕組が解けたときは最高である。 そもそも実用性があまりなく、ただ単に興味の満足のために取り組んだので、必ずしも言語学を唯一の目標として進んできた訳ではない。もし空襲がなくて昆虫や植物の標本が焼けなかったら生物学を学んだかもしれないし、画集を買うお金があったなら、美術評論のようなことを心がけたかもしれない。言語学は自分にとっては数多くある可能性の一つであると思っていた。そこで他の人の書いたものを読んでいて、もし、もう一度生まれてきたら、また同じ道をたど