最初に申し上げたとおり、デジタル・ミュージアムという概念を考え始めたのはずいぶん以前のことで、もちろん、将来疫病が蔓延して、ミュージアムが開けなくなるだろう、などと想像していたわけではありません。しかし、ミュージアムを訪れられない人が、世の中にはけっこういるよね、ということは考えました。 1995年に阪神・淡路大震災が起こった際に、被災した文化財を救い出す「文化財レスキュー」を初めて試みました。その反省をする集まりの中で「文化財の保全という立場から見ると、現代の社会は緩慢に震災にあっているようなものですね」というお話をしたことがあります。突然の災害は、多くの人の生活を損ね、伝えられてきた文化的な所産が大量に失われる事態が生じます。それが顕著であったため、短期間に文化財を救おう、という動きがありました。でも、考えてみると、たとえば家が取り壊されて家財が廃棄される、というのは、平時でも目立たな