国立国語研究所(NINJAL)は,日本語学・言語学・日本語教育研究を中心とした研究機関です。研究者向けの研究資料・コーパスから,一般の方向けのイベント情報・読み物まで,さまざまなコンテンツを公開しています。
今回のKADOKAWAのコミック版『男色大鑑』のチャレンジは、本当に面白くて、こちらの勉強にもなりました。心から、関係された方々に感謝したいと思います。もちろん、コミック世界のプロの眼から見れば、いろいろ注文はあるのでしょうけれど、それはそれとして、とにかく大きな、最初の一歩になったと思います。 ただ、実に細かいことなんだけれど、ひとつだけ、これは何とか工夫をして欲しいと思った点がありました。それは漫画に出てくる手紙です。若衆や念者、その他殿様を始めとする武士たちが、手紙を書いたり、読んだりする場面というのはけっこうあって、それはそれでまた美しく艶なる仕草でもあるのです。が、その手紙に書かれている文字、いわゆる「にょろにょろ文字」が、今回のコミックでは本当に「にょろにょろ文字」だったのには、ちょっと幻滅したのでありました。 もちろん、昔の文字、つまり変体仮名・くずし字をきちんと書いて欲しい
平仮名の字体の中でも1900年(明治33年)以降の学校教育で用いられていないものが「変体仮名」と呼ばれている。 本来、平仮名はひとつの音に対していくつかの字形があった。たとえば、今は「ハ」(ha)と読む平仮名として「は」だけを使っているが、明治時代までは、 などの様々な形を使っていた。 平仮名の字体が人為的、権力的に選一された結果、現在の日本では変体仮名はあまり使用されなくなったが、看板や書道、地名、人名など限定的な場面では使われている[2]。異体仮名(いたいがな)とも呼ばれる[3]。 変体仮名に対し、現在使われている字体を「現用字体」「現用仮名」「正体仮名」「本則仮名」と呼ぶ。また、変体仮名の使い分け(現用字体を含む)のことも「変体仮名」と呼ぶことがある[4]。 平仮名は誕生した当初から、ひとつの音節に対して複数の字体があった。これらは同じ文章のなかでも混用された。元来、平仮名・変体仮名
情報処理推進機構(IPA)は6月30日、「MJ文字情報一覧表 変体仮名編(案)」を公開し、意見募集を開始した。意見募集は8月21日まで(MJ文字情報一覧表 変体仮名編(案)の公開、 変体仮名標準化へ向けての考え方)。 MJ文字情報一覧表 変体仮名編(案)にまとめられた変体仮名は299文字。戸籍統一文字の変体仮名168文字と、国立国語研究所共同研究プロジェクト「文字環境のモデル化と社会言語科学への応用」で選定した変体仮名264文字を合わせ、重複を取り除いたもの。字形としては286文字だが、音が異なる場合は図形的に同一であっても別の文字として扱うことで、合計299文字となっている。同一字形が複数の音に割り当てられているのは、以下の11組だ。 MJ090002 = MJ090293MJ090028 = MJ090053MJ090039 = MJ090061MJ090059 = MJ090151M
文字情報基盤ワーキンググループ並びに文字情報基盤検討サブワーキンググループでの議論を踏まえ、299文字の変体仮名をまとめたMJ文字情報一覧表 変体仮名編(案)を作成し、公開しました。 MJ文字情報一覧表 変体仮名(案) 本一覧表について、2015年6月30日から8月21日まで意見募集を行いました。 多数のご意見ありがとうございました。 意見募集結果(pdf) 頂いたご意見を踏まえ、MJ文字情報一覧表 変体仮名編 Ver.001.01を公開する予定です。さらに同一覧表に基づき、情報規格調査会を通し、変体仮名の文字符号を国際標準とする為の提案を行う計画です。 2015年10月21日のVer.001.01をリリースしました。詳細はこちら。 同一覧表および、変体仮名の標準化に対する考え方については、こちらをご覧ください。
いよいよ最終回(といってもまだもう少し同じ話は続きますが)。 わ行の字母は以下。 198王 199和 200倭 201輪 202井 203居 204爲 205遺 206惠 207衞 208乎 209尾 210越 211遠 212无 「わ」の字母は「和」。 多いのは「王」からの「わ」(王は「わう」と書く。「ワンさん」の「王」) 「倭」からは、 「輪」からは、 他に「吾」や「曲」もある。 「ゐ」は「為(爲)」が字母で、 「井」は、 「居」は、 「遺」からは、 他に、「囲(圍)」も。 「ゑ」は「惠」が字母で形はさまざま、 「衛(衞)」には大きく二種ある。 その他、「会(會)」や「回」もある。 「を」の字母は「遠」で、変体仮名と言えるかどうか、活字に二種ある。 さらに「遠」で、 「越」からは、 「乎」は、 「尾」は、 おまけで、「ん」の字母「无」。っていうか、これ「無」ですよ。 住基仮名にご丁寧に
毎日更新も2週間続いた。もう少し。 ら行の字母は以下。 176良 177等 178羅 179李 180利 181里 182理 183梨 184離 185流 186留 187累 188類 189連 190禮 191麗 192呂 193婁 194路 195樓 196廬 197露 「ら」の字母は「良」というのが見れば分かる。 下段の形はもう「ら」と言ってもいいかも。 「等」の草書で「ら」の変体仮名とされるもの、「我ら」「彼ら」の場合には 漢字でしかない。そうでない例を探さないと。 「羅」は天ぷら屋でよく見る(「婦」の時も書いた。そんなに天ぷらばかり食べてません)。 他に「頼(賴)」もある。 追記:この字は「朗」ではないかとTwitterでコメントを頂いた。「標準草書」の画像では、 そうかもしれない。 「り」は「利」から。というか「リ」から。 「李」はあまり見ないが、 「里」はよく見かける。 住基
草仮名と変体仮名は別ものだとはよくいわれるし、実際そうなのだろうが、いざ字形例を見て、これは草仮名これは変体仮名と仕分けられるものなのか、疑問は尽きない。 さて、は行の字母は以下。 113八 114半 115波 116者 117葉 118頗 119盤 120日 121比 122非 123飛 124悲 125不 126布 127風 128婦 129倍 130部 131偏 132遍 133篇 134弊 135邊 136本 137奉 138保 139報 140穗 141寶 (太字は複数の字形があるもの) 「波」は「は」の字母だが、このような変体仮名もある。 「者」は非常に多い。 ループするものとしないものがあるが、住基仮名の例では折れているようにしか見えないので疑問。 「八」は助詞に用いられ、「ワ」と読む「は」に広がったとか。片仮名ではない。 「盤」の字形例は、 「葉」の字形例を見ると、銀座竹葉
今日は「は行」の予定だったがちょっとお休み。 実はIPAのサイトがメンテナンス中で、 http://www.ipa.go.jp 今日から三日間、入札はできないらしい。 で、今回は濁音の話。 IPAの入札では、作成すべき変体仮名を字母(漢字)で指定している。 漢字なので当然、濁音・半濁音がない。 Unicodeには新たに濁音付きの仮名が入る可能性はない。濁音・半濁音は合成によって表現されることになっているからだ。 しかし、文字コードとしては合成で表現できても、フォントには合成済みのグリフが必要である。文字ごとに濁点・半濁点の位置が異なるからだ。 今回の入札が、符号化の提案用のグリフ作成ということなら構わないが、フォントとして納品することを求めているなら、濁点・半濁音を含まないのはおかしい。 か行、さ行、た行、は行の濁音と、は行の半濁音、ざっと150個のグリフが余計に必要になる。これは入札額に
雑談なしで、な行の字母は、以下。 91那 92奈 93難 94二 95仁 96丹 97耳 98兒 99爾 100奴 101努 102怒 103子 104年 105根 106禰 107乃 108迺 109能 110野 111農 112濃 (太字は複数字形あり) 「な」の字母は「奈」だが、この形になかなか決まらなかったのか、様々な形がある。 住基仮名にも二つ。 「那」もいろいろ。 「難」は単純化できないので難しい。 他に「な」には「南」など。 「に」で困ったのは、この字形。 資料によって「丹」だったり「爾」 だったりするのだ。 「爾」は、 「丹」は、 「耳」は細長く書くのがポイントなのだが、住基では幅広になっている。 「ぬ」は字母「奴」から。「女」が「め」なのでループのところが「又」。単純な形だから変体仮名として他の形があるようにも見えない。住基のこの形でいいのだろうか。 「努」「怒」は「ぬ」
今回の入札では、IPAmj明朝の仮名に合わせたデザインが要求されている。 そこで、いくつかのDTPフォントとIPAmj明朝を比較してみた。 学参フォントのG-OTFリュウミンは別にして、IPAmj明朝は脈絡(筆のつながり)を切り離す傾向が強いことが分かる。我々が活字資料として掲げているものは、ほぼ築地体前期五号仮名と同じデザイン指向といえるから、IPAmj明朝に合わせるということは続いている筆の流れをどこでどう切るかという判断が必要になる。もちろん秀英明朝のようなクラシックなデザインのフォントに合わせるなら問題ないのだが。 さて、た行の字母。 69太 70多 71堂 72當 73千 74地 75知 76遲 77川 78津 79徒 80都 81天 82弖 83亭 84傳 85轉 86斗 87止 88東 89度 90登 太字は変体仮名のグリフが複数ある。 「多」には、 と とがある。住基仮名で
今野真二『百年前の日本語』の「はじめに」に、〈現代は、使用する文字、漢字の音訓などに関して、できるだけ「揺れ」を排除し、一つの語は一つの書き方に収斂させようとする傾向が強い。(中略)日本語の歴史の中では、むしろ特殊な状況化にある〉とある。 明治中期以降、漢字の制限や字体の(康熙字典体を基準とする活字の)標準化、仮名のいろは仮名への一本化などによる日本語表記の標準化が行われ、第二次大戦後はさらにそれが推し進められた。 文明開化=欧米列強に追いつくための合理化、そして敗戦からの復興のための合理化が必要不可欠であったため、古いものを捨て新しいものを取り入れることが第一であり、表記の単純化・標準化もその一環だったと見ることもできよう。 ところが、1970年代の終わり頃から、風向きが変わり始めた。日本が豊かになることで失われつつある文化を惜しむだけのゆとりが生まれたせいなのか、表記においても多様化・
昨日の続き。IPAの入札仕様書で、か行の変体仮名の字母は28個。 19加 20可 21我 22哥 23賀 24閑 25歌 26嘉 27駕 28支 29起 30幾 31喜 32貴 33九 34久 35求 36具 37倶 38介 39希 40計 41氣 42遣 43己 44古 45故 46許 活字資料からは、これに追加すべき字母は別にない。書道系では他の字母もあるが、ここに字形を掲げられるものはない。 太字にしたのは、同じ字母で異なる字形が存在するものだ。 多くの活字で二種類の「可」を用意していた。 これは坪内逍遥『小説神髄』だが、この部分だけで3種類の「か」を使っている。 「幾」も多い。 「久」も「く」に近い形と漢字に近い形の二通りがあった。 ただ、住基仮名の形は…… これを三つ目に勘定することもないか。 「介」の場合は活字資料ではだいたい一種類でまとまる。 ところが、住基に二つある。 これ
朝、蒲団の中でTwitterを眺めていて仰天。“情報処理推進機構:入札:「『変体仮名』の字形データ制作」に係る一般競争入札”というツイートが目に飛び込んできた。 http://www.ipa.go.jp/about/kobo/tender-20121228-2/index.html 日付は昨年12月28日、おやおや御用納めの日ではないですか。 そして、(以下下線部はコピペ) 入札受付期間 入札者は、電子入札システムを利用し、次の日時までに入札金額を含む入札データを送信しなければならない。 2013年1月8日(火)14時00分から2013年1月22日(火)17時00分まで 明日から! そして入札仕様書(http://www.ipa.go.jp/about/kobo/tender-20121228-2/documents/tender-20121228-2.pdf)を読むと、 5. 納入期限
IPAが公告している『変体仮名』の字形データ制作に関して、明朝体でデザインするのは現時点では無理ではないか、との御意見をいただいた。その意見は、私(安岡孝一)にではなく、IPAに言ってほしいのだが、確かに無理だと思う。 IPAmj明朝の平仮名(というか現代の明朝体の平仮名)は、起筆が極端に誇張されていたり、太さの変化がかなり微妙だったりして、明治期の平仮名活字のデザインとは必ずしも合わないのだ。つまり、変体仮名の明朝体デザインを今やるとなると、ここ100年くらいの明朝体デザインの進化を、たった2ヶ月でシミュレートすることになる。それはちょっと無理だろうなぁ、と思って、機械彫刻用標準書体の方を狙っていたのだが、IPAは待ってくれないようだ。さて、どうしよう…。
順調に四日目。「え」の項は厄介なことになっている。 「え」の字母は「衣」。「衣」は常用漢字の音訓では「イ」としか読まないが呉音は「エ」で、現代でも「法衣」「白衣」の語では「え」と読む(「ほうい」「はくい」としか読まないという人は辞書引いてみてください)。 ところが、片仮名の「エ」は「江」からできたもの。これは本来ヤ行のエだといわれる。 ア行のエとヤ行のエ、といっても発音に区別はない。いろは歌が作られた時代(平安時代だそうだが)にすでに区別が失われていたので、いろは歌にも「衣」と「江」の別はないのだ(ワ行の「ヱ=ゑ」は区別されている)。 「い」の項で詳しく書かなかったので、ここで脱線して「ヰ=ゐ」のことも含めて触れておけば、ワ行のヰヱヲ(ゐゑを)も現代ではア行と発音が変わらない。いろは歌に残り、歴史的に仮名の遣い分けが行なわれてきたために、この仮名は残ったのだが、発音が同じなだけに遣い方がわ
三日目の「う」を検討する前に、方針の確認を。 Unicodeには、変体仮名の符号化提案がオランダの個人から出されている(http://std.dkuug.dk/jtc1/sc2/wg2/docs/n3698.pdf)。この提案のレパートリーと字形は「今昔文字鏡」の変体仮名と一致している。 一昨年、内田明さん(@uakira2)と協力して作成したPDFでは、この提案のレパートリーも収録した。 ただ、今回の検討では住基仮名に重点を置いている。 日本のナショナルボディが、住基漢字に続いて住基仮名をUnicodeに押し込む流れができたという噂があるからだ。 これまでも、またこれからも力説するが、住基変体仮名はレパートリーもグリフも筋が悪過ぎる。 PDFでは今昔文字鏡、住基、活字見本帳、書道仮名手本をベースに変体仮名のレパートリーと代表字形を探る試みをしたのだが、今回さらに住基仮名の批判的検討を行う
二日目は「い」。いろは仮名の字母は「以」だが、同字母の変体仮名が写研に二つある。脈絡の繫がったものと切れたもの。 写研の変体仮名は築地活版の見本帳からトレースしたものと思われるのだが、この字についてはなぜ二つにしたのかわからない。築地活版製造所の見本帳でも二種類の「い(以)」を持つものがあるわけだが(三号に二例ある)。 「以」から「い」までに、二つの中間形を置くのは無理がある。脈絡の繫がりはデザイン差の範囲だろう。 といって、デザインの大きく違う住基の形には納得できない。 鋳造活字では他の字母はないが、書道仮名手本では、「意」「伊」「移」「五」がある。ただ「意」は「お」とも読めるので、仮名として微妙ではあるが使われてきたものだから仕方がない。 住基仮名でこれに対応するものは、 の二つ。一見して筆法がおかしいことがわかるだろう。「伊(ac04)」など一体どう書いたらこうなるのか。 「移」は結
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