前々回は「差別表現」と「表現の自由」の関連を問うために、この問題が国際人権法においてどのように規定されているかを確認し、日本政府が国際人権法のフィールドでどのように主張し、国際人権機関からどのような勧告を受けたかを確認した。実は、ヘイト・クライム問題に関する限り、憲法学は日本政府とほぼ同じ歩調を取っている。 そこで前回は、憲法学の動向をやや詳しく概観し、検討を始めた。代表的な憲法学教科書の記述を確認するにとどまったが、憲法学がヘイト・スピーチ処罰に否定的であること、その理由が表現の自由の保障にあること、しかし、十分な理由が示されていないことを見ることができた。憲法学教科書では、明白かつ現在の危険の原則やブランデンバーグ判決を引証するが、表現の自由の保障が優越的地位にあることと、ヘイト・スピーチ処罰ができないことの間の論理的説明はなされていない。