○東京大学史料編纂所編『日本史の森をゆく:史料が語るとっておきの42話』(中公新書) 中央公論新社 2014.12 東京大学には、学部・研究科(大学院)のほかに「附置研究所」と呼ばれる組織がある。史料編纂所は「研究所」と名乗ってこそいないけれど、この「附置研究所」のひとつである。というより、書店あるいは歴史好きの人間の印象で言えば、『大日本史料』『大日本古記録』という史料集を営々と(←この古めかしい形容詞がぴったり!)編纂し、刊行し続けている組織である。 本書は、史料編纂所に所属する42名の研究者が、それぞれの専門分野から、とっておきのトピックについて執筆した短編エッセイ(5ページ)のアンソロジーである。どこからお読みいただいても結構、というのが、所長の久留島典子先生のお言葉であるが、内容は「文書を読む、ということ」「海を越えて」「雲の上にも諸事ありき」「武芸ばかりが道にはあらず」「村の声
漢文スタイル [著]斎藤希史 「晴耕雨読の毎日だった学生は窈窕(ようちょう)たる下宿の娘にふられ、故郷に帰って緑陰読書の生活をした」。ん? 何かおかしい。 無粋を承知で現代語訳してみよう。「寸暇を惜しんで勉学する毎日だった学生は、陶然とするほど美しい下宿の娘にふられ、故郷で読書三昧(ざんまい)に世事を忘れた」となる。あれ? まるで明治の小説にあるようなこのストーリーは、本書を読んでいて私の頭に浮かんだ作りごとであるが、ここに出てくる「晴耕雨読」「窈窕たる」「緑陰読書」は、現代日本で一般的に知られている意味とちょっと違うのだ。ここでは「晴耕雨読」は「老後は別荘でも買って悠々自適」といった意味ではない。違いの理由は、こうした熟語の多くが漢文に背景を持つからなのだ。 日本の文献が「漢文文化圏」(「漢字」ではないのに注意!)という、漢文と訓読文の二重性を持つ文化の中に位置づけられることを明らかにし
愛知県立大学の與那覇潤先生から頂きました。どうもありがとうございます。東島誠先生と與那覇さんが対談する形式の著書で、前著の『中国化する日本』をベースに、日本国・日本社会の様々な起源を考える内容となっています。 いやー、それにしても與那覇さんすごいですね。旺盛な執筆活動というのももちろんそうですが、対談ベースでここに挙げられているような様々な文献に言及できるのは本当にすごいなあ、と*1。しかも、言及される文献は、歴史学の実証分析に関わるものだけではなく、政治思想(史)や現代政治に至るまで本当に様々で、その博識さには舌を巻きます。はしがきでは「平易に」とあって、ご本人も「大学入学後のレポートの参考書に…」と書かれていて、確かに語り口は軽妙だし読みやすいですが、いやー、これをちゃんと批判的に検討するために元文献たどりながら読むとしたらえらいことですよ(別にネガキャンしてるわけではありません)。
山下裕二 編・監修『雪舟はどう読まれてきたか』(平凡社ライブラリー)がおもしろかった。読み始めてすぐ「また、語られるような経歴を持つ画家も、我が『ひらがな日本美術史』では雪舟が最初である」と書かれていた。『ひらがな日本美術史』って橋本治が『芸術新潮』に連載しているやつなのに、何で山下裕二が「我が」なんて言っているのだろうと、目次をよく見たら、26人の著者の雪舟に関する29本の論文を集めた本だった。それで『雪舟はどう読まれてきたか』という変な標題で、山下裕二が「編・監修」なのだった。 論文は発表の新しい順から並んでいる。1997年の橋本治から、赤瀬川原平、水上勉、丸木位里・俊、保田與重郎、吉村貞司、矢代幸雄、寺田透、河北倫明、土方定一、岡本太郎、小林秀雄、川合玉堂、1910年の中村不折、そしてフェノロサ等々、錚々たるメンバーだ。これだけ揃うとさすがに様々な意見を読むことができる。 雪舟が中国
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1.はじめに 「liber studiorum」というブログがある。更新を停止したようだが、以前は福岡伸一『生物と無生物のあいだ』や茂木健一郎の脳科学本などのニセ科学系トンデモ本や佐藤優のおべんちゃらを精力的に批判していた。このブログを読むと、福岡や茂木、佐藤がいかにテキトウかつ悪質な人間たちであるかも去ることながら、こうした人々の跋扈を許す日本社会の体質がよくわかる。自らが当該分野の「プロ」であることを前面に押し出してマスコミや出版関係者を籠絡する業界遊泳「学者」は、自然科学に限ったものではなく、どこの業界でも見られるものだ。 例えば、昨年『中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史』(文藝春秋)を出版した與那覇潤などはその歴史学版といえるだろう。 私は端的にいってこの本はトンデモ本にすらなりきれていない中途半端な製品だと思うが、マスコミ・出版業界は與那覇をたいそう持て囃している。これは
山本博文ほか『こんなに変わった歴史教科書』新潮文庫, 新潮社, 2011. 中学生の日本史教科書をテーマとした一般向け書籍。東京書籍発行の1972年版と2006年版の教科書の変化を検証する、ということになっているが、どちらかと言えば比較よりも「記述が変化した理由」にウェイトがある記述である。1980年代までに歴史教育を終えてしまってその後の史学の展開を知らない中高年読者に、最新学説を伝えるべく編まれた歴史読み物と考えた方がよい。オリジナルは2008年に東京書籍から出版されている。 5人の若手著者が分担執筆した古代から日露戦争まで36のトピックを、筆頭の山本博文が監修したとのことである。僕は1980年代後半に中学生だった世代に属し、おそらく1972年版に近い歴史教育を受けたはずである。しかし、鎌倉幕府の成立年は諸説あるとか、源頼朝だと思われている肖像画のモデルは実は別人らしいとか、長篠の戦い
国文学科・上野誠先生が、読売新聞読書委員会委員に就任しました。 任期は2年間で、この間、読売新聞書評面の書評すべき本の選書と、書評執筆を行ないます。一般に、読売新聞書評委員ともいわれる委員です。 2年間の期間中は、ほぼ毎月2本程度の書評を執筆されます。委員にはベストセラー作家の角田光代さん、女優の小泉今日子さん、社会学者の橋爪大三郎さんをはじめとして、作家、学者、論壇人が担当します。 すでに1月から書評が掲載されておりますので、「読売新聞」日曜日の書評欄にご注目下さい。 ○上野先生コメント 責任重大な仕事を拝命しました。読売新聞は購読者数が一千万人を超える、世界最大の新聞メディアです。また、日本の新聞の特徴として、多くの書評が載ることも、他の国にはないことだそうです。研究教育と書評執筆のバランスをとりながら、がんばりたいと思います。私が書評委員に就任することで、本学学生が少しでも本好きにな
「つくられた」歴史認識に一撃を与える一冊。 「女の地位は低い」や「日本は農本社会」は、つくられたイメージだと主張し、その傍証を挙げてゆく。多数派の歴史認識がくり返されることで強化され、常識化してゆく過程はE.サイード「オリエンタリズム」を思い出す。だが、著者が主張する反証・反例が少なすぎる。そんな一点でもって全面展開するのが“歴史学”なの? 「全ての日本人が読むに値する」という惹句に誘われて読む。本の目利きも絶賛してるから安心かと最初は思った。POPには、「いま読んでいる本をやめてでも読むべき」とあり、相当自信があるらしい。新しい知見が得られるというよりも、もともと薄々感じてたことを補強してもらえる。いわば、「つながる」読書になった。 たとえば、「女」に対する固定観念を揺さぶる。女性が公的な世界から排除され、抑圧されつづけていたというのは、「これまでの常識」にすぎないという。銭を持たず身一
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