「触知的」な恐怖描写と「内戦」のアイロニー 映画を見こんでいる人なら、アメリカで内戦が起こる映画と聞いて、まず「つまらなそうだな」と不安を覚えない向きはいないだろう。戦争映画はあまたあれど、戦争を俯瞰的な「大状況」としてスペクタキュラーに描けば、ただの絵巻物になってしまう。日本映画は戦中からそういう描き方がお家芸のごとくに継承されて、『ハワイ・マレー沖海戦』から『日本海大海戦』に至るまでそういうパノラミックな視座で描く作品は見かけるが、市川崑や塚本晋也の『野火』のように戦争を極限的な主観的世界で描く作品は得意ではないようである。アメリカでめちゃくちゃ派手な極限的主観映画『地獄の黙示録』が誕生した頃、わが国では壮大絵巻『二百三高地』を作っていた。これが史実の絵巻物ならまだしも歴史の教材くらいにはなりそうだが、アメリカの内戦という嘘ばなしを「大状況」として描いては、もう勝手になさいという感じだ