『恋人たち』は剥き出しの人生についての映画である。生きることを豊かにしてくれるさまざまな飾りつけを、すべて取り外してしまった先にあるような物語である。人生が虚無と殺伐に満ちていることを、われわれはよく知っている。ゆえに人びとは、それぞれのしかたで、剥き出しの人生を直視しないよう細心の注意を払う。会話の際には冗談を言い、相手の話をきちんと聞き、たくさんの良書を読む。映画や音楽に触れ、美しい衣服を身に着け、部屋を清潔に保つ。なぜそのようなことをするのだと言われても返答がむずかしい。生きるとはそうした、巧妙な回避の連続によってしか成立しないためだ。さもなければ目の前にはただ剥き出しの人生があるのみで、そうした虚しさに直撃しながら耐えられるほどわれわれは強くない。 だからこそ、私は『恋人たち』に反発を覚えた。すべてがあまりにも剥き出しで、登場人物たちは不満ではちきれそうになっていたためだ。少なくと
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