わたしがもし女性として生まれてきたときのために、親が用意していた名前は「きらら」だった。そのことを知らされたのは、おそらく小学校の四年生くらいだったはずである。びっくりした。自分がもし女の子として生まれてきたら、きららとして生きていかなければならなかったのだ。そんなパラレルワールドをふとのぞいてしまったような気がして、子どものわたしはなんだかずいぶん複雑な心境になったことを覚えている。 「俺はきららなのか」 「よりにもよって、なんできららなんだ」 「ぜったいに名前負けするじゃないか」 きららになった自分は想像がつかなかった。きっと、すごくかわいくなくてはいけない。近くに寄るといい匂いのする女の子でなくてはいけない。自転車のかごにフランスパンを入れて走らなくてはいけない。それもこれも、きららという、あかるく輝く星のような名前に負けないための努力だ。女の子になったわたしは、自分の名前に負けない