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ブックマーク / flipoutcircuits.blogspot.com (20)

  • ピンカー「パラグラフなんて存在しないよ」

    The Sense of Style から抜粋: 文章がツリーみたいな構造になってるのを理解すると,専門的でない散文を書くときに文章構造を視覚的にわかりやすくする数少ない仕掛けのひとつを理解しやすくなる.その仕掛けとは,段落の区切りだ.多くの文章作法では,段落(パラグラフ)を組み立てる方法について詳しく指南している.でも,そういう指南は見当違いだ.なぜなら,段落なんてものはないからだ.文章のアウトラインを構成する部品も,ツリーの枝分かれも,文章の単位も,改行やインデントで区切られてる文のまとまりに一貫して対応してはいない.かわりに存在してるのは,段落の *区切り* だ:読者が立ち止まって一呼吸入れていま読み終えた内容をじっくり咀嚼してからまたすぐにどこから読み始めればいいかわかるように文章の切れ目を目で見えるようにしてるしおりなら,たしかに存在してる. パラグラフの区切りは,たいてい,談

  • 「公正と公開討議についての書簡」

    私たちの文化的制度は,試練の時を迎えようとしている.人種的・社会的な公正をもとめる強力な抗議が起こり,長らく遅れていた警察改革を求める声が上がっているばかりか,さらに,高等教育・ジャーナリズム・慈善活動・芸術にとどまらず,私たちの社会全域にわたって,いっそうの平等と包摂が広く求められている.しかし,こうした清算は必要ではあるものの,同時に,この清算によって新たな種類の道徳的態度と政治的な姿勢が強化されている.この道徳的態度と政治的姿勢は,イデオロギー面での順応を優先して,公開の討議とお互いの相違への寛容という私たちの規範を弱める傾向がある.公正を求める前者の動きを私たちは歓迎する一方で,後者には抗議の声を上げる.反自由主義 (illiberalism) のさまざまな勢力は,世界中で力をつけており,ドナルド・トランプという強力な同盟者もいる.トランプは,民主主義に対する紛れもない脅威を代表す

  • ピンカー Enlightenment Now 抜粋: 格差悪影響論の難点について

    スティーブン・ピンカーの Enlightment Now から、ウィルキンソン& ピケット『平等社会』が格差と人々の厚生に因果関係を認めるのは短絡だ、と指摘してる箇所を抜粋: (…)疫学者リチャード・ウィルキンソンとケイト・ピケットによる有名な著書『平等社会』(The Spirit Level) ではこう主張している――所得格差が大きい国々ほど、殺人率・投獄率・十代の妊娠・乳幼児死亡率・身体的精神的疾患・社会的不信・肥満・薬物乱用は増える。経済格差が病理を *引き起こす* のだとウィルキンソンとピケットは主張している:不平等な社会のせいで、支配を奪い合う「勝者総取り」競争にひきこまれているように人々は感じていて、そのストレスゆえに人々は病気になったり自暴自棄になったりしているのだ、と彼らは言う。 『平等社会』理論は「左翼の新たななんでも理論」と呼ばれている。複雑に入り組んだ相関から一足飛び

  • 「ジェンダーと科学の科学:ピンカーとスペルクの対論」(02)

    ピンカー:これは,極端な言明です――とくに,〔スライドに画像を並べている〕こうした著作や他のさまざまな文献レビューに要約されているとてつもない量の研究が,実はずいぶんちがう結論を示していることを踏まえると,なおさら極端に思えます.そのなかの1つから引用しましょう.ダイアン・ヘルパーンが書いた『認知能力の性差』というから引用します.ヘルパーンは立派な心理学者で,数年前にアメリカ心理学会会長に選出されています.また,なんでもかんでも理論でぶった切るような人でもありません.彼女は特定の理論に心酔してはいません.たとえば,進化心理学をずっと批判しています.同書の序文をみてみましょう: 《書の執筆をはじめた頃,男女での思考能力にみられる性差がさまざまな社会化の営為や人為結果や研究の失敗によるものだというのは明白なように思われた.積み上げると数フィートにもなる学術論文の山を検討し,その論文の山すら

    「ジェンダーと科学の科学:ピンカーとスペルクの対論」(02)
  • ソニーストア大阪で MESH をたっぷりさわ…れなかった

    ソニーストア大阪の11周年イベントで,新規事業創出プログラムでうまれた製品・プロトタイプをいくつか展示してる(11月15日まで).でかける用事があったので,ついでにのぞいてきた. MESH とはどんなものかと言うと,タブレットなどの端末をハブにして,Bluetooth で通信するセンサーやら入出力装置やらの小さな「タグ」をつなぐキット――といっても,たぶんピンとくる人は少ないと思う.レゴがちいさなブロックをあれこれ組み合わせてお城をつくったり飛行機をつくったりするように,MESH はちいさな「タグ」をあれこれ組み合わせて,ちょっとした装置をつくれる. 動画をみれば,だいたいわかるかも: たとえば,光センサー担当のタグがあかるさを検知したら,それをトリガーにして,音楽の再生をはじめたり.なにをどう組み合わせるかは,アプリでつくる.(IFTTT を使ったことのある人なら,あれの「レシピ」に近い

    ソニーストア大阪で MESH をたっぷりさわ…れなかった
  • 授業:悩みは深まるばかり

    3つ授業まわりのエントリを書いた: 語学授業スライドの例 出席カードとコメントはスキャンする 語学授業:ショートスピーチ/プレゼンの指導 べつにすごい授業をしてると自負してるわけじゃなく,その逆で,ひたすら困りながら試行錯誤を続けてる. さすがに教師もどきをやって何年にもなるので,なにをどう工夫すればいいのか,ある程度のノウハウはたまってる. いちばんできてないのは引き算だ:できる工夫をやればやるだけ時間と労力はとられる.日によっては,午前1時におきて授業準備にとりかかり,始発電車で長距離通勤して,ついた先でもさらに授業準備,そして授業編をこなして夜9時10時に帰宅,そのまま眠ってまた午前1時ごろに起きて…という生活パターンになることもある.泥沼といっていい.これを少しでも軽減しようとすれば,やるべき作業を減らす必要がある. 楽なやり方はあるといえば,ある.たとえば,語学教科書で長文読解

  • 「ノートをとるならラップトップより手書きがおすすめ」という心理学研究

    伊達と酔狂のサイト「経済学101」にタバロックの短文を訳した: アレックス・タバロック「ラップトップPCではなく手書きでノートをとるべき理由」 タバロックが参照している Vox の記事はコレ: で,この Vox 記事が参照してる研究はこちら: Pam A. Mueller & Daniel M. Oppenheimer, "The Pen Is Mightier Than the Keyboard: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking," Psychological Science, June 2014 vol. 25 no. 6 1159-1168. アブストラクト: Taking notes on laptops rather than in longhand is increasingly common. Many resea

  • 誤解を誘う記事の作り方を学ぶ:NewSphereさまの事例

    やや長文になったので,最初に要点を: ここで取り上げるのは,経済政策の話じゃなくって,ニュース記事の書き方の話. NewSphere は,クルーグマンのブログ記事を参照したと言いつつ,実際にはそこで論じられていない現日銀の政策批判が論じられているかのように誤解させる記事を書いている. この書き方は単純な英文誤読ではありえない. また,参照記事の明示が不適切だ. もっとフェアで誠実な書き方をしてください. 追記:その後,NewSphere の当該記事は取り下げられた.ぼくは,この対応は立派だと思う. イントロ ツイッターの TL で少し話題になっていたのでのぞいてみたところ,《「海外視点」で日を報道》を謳う NewSphere という媒体が,次のような記事を載せていた: 「クルーグマン教授、日銀のQEにインフレ達成効果ないと断言 米誌などは反論」(NewSphere, 2015年3月18日

    誤解を誘う記事の作り方を学ぶ:NewSphereさまの事例
  • メモ:クルーグマン「インフレ・デフレ・日本」(2010年5月25日)

    流動性の罠においてマネタリーベースを拡大させてもインフレの昂進を引き起こすことはない,と述べている例をメモしておく.全文訳ではないのでご注意を. Paul Krugman, "Inflation, Deflation, Japan," The Conscience of a Liberal, May 25, 2010. そう長くない文章だけど,論点は次のとおり: 流動性の罠においてマネタリーベースを増やしても,インフレが進むわけではない. たとえば,日銀によるかつての「量的緩和」はマネタリーベースを増やしたけれど,デフレの脱却にはいたらなかった. マネタリーベース拡大では不十分で,長期資産の大量購入か,あるいは中央銀行がもっと高いインフレ目標にコミットメントをとる必要がある. 一方,財政政策にはそうしたコミットメントの必要がなく,その点も目下の状況で財政政策を打つべき根拠になる. では,文

    メモ:クルーグマン「インフレ・デフレ・日本」(2010年5月25日)
  • クルーグマンは何を「失敗」と言ってるのか

    ポール・クルーグマンが,『ニューヨークタイムズ』(10月30日付け)のコラム "Apologizing to Japan" で,「日にごめんなさいしなくちゃいけない」と書いている. クルーグマンやバーナンキ元連銀議長は,デフレに陥った日のマクロ経済政策が間違っていると批判していた.もしもアメリカやヨーロッパで同様の経済問題が起きたならずっとうまく対処できる用意があると思っていたのに,いざフタをあけてみたら,日以上に対応がお粗末だった.だから「ごめんなさい」というわけだ. 1. 誤解をさそう新聞記事見出し 日語でも,この発言を伝える記事がいくつかでている. 《ノーベル賞経済学者の「日への謝罪」》(読売新聞 (Yomiuri Online),2014年11月1日配信) 《「欧米経済、もっと悪い」 クルーグマン氏 日に謝罪》(東京新聞,2014年11月1日夕刊) 《ノーベル賞経済学

  • 古市憲寿氏による吉野作造の「雑訳」はたんに雑であって訳ではない

    ツイッターでご教示いただいたのでとりいそぎメモる. 社会学者の古市憲寿氏が,吉野作造の文章を次のように「雑訳」している: (雑訳)もし日の荒廃の原因が、あまりにも西洋化して、美しい伝統が失われたっていうのならば、西洋はとっくに滅んでないとおかしいじゃん。(by 吉野作造「蘇峰先生の『大正の青年と帝国の前途』を読む」1917年) しかし,これは原文の趣旨をまげているおかしな訳だ.吉野の文章と照らし合わせてみよう. ▼吉野の原文(強調は引用者によるもの): 例へば今日の青年の志気の振はざるは、西洋思想若くは西洋文学の結果なりとして、はては西洋の文物に眼を蔽はんことを要求するが如き態度に出づる。西洋の文学の中には余りに個人的な、余りに非国家的な分子もあらう。然し適当に之れを理解して居るものから見れば、此等は恐らく大して青年を誤る種にはならぬだらう。若し斯くの如き文学の流行するが故に青年の志気頽

  • IMFの世界経済見通し:「次の消費増税」に言及した箇所

    新たに公表されたIMFの世界経済見通しについて解説したロイターの記事に,次のような箇所がある: 「一方、2015年10月に予定される10%への消費税率引き上げについては、予定通り実施するべきとの見解を示した。」 (「IMF、日の14年経済成長率見通しを0.9%に大幅引き下げ」;ロイター,2014年10月7日) ためしに,実際のレポート (pdf) を見てみよう (pp. 20-21): ▼原文: In Japan, aggressive monetary policy easing - the first arrow of Abenomics - has helped lift inflation and inflation expectations, and actual and expected inflation are progressing toward the 2 perce

  • "technically": 「厳密に言えば~だ(けどそれより大事なことがある)」を1語で表す

    副詞 technically を「いちおう」くらいの意味で使ってる用例: Technically Evernote is free. But for 5 follars a month or forty five dollars a year you get better offline access, better search, and more security.

    "technically": 「厳密に言えば~だ(けどそれより大事なことがある)」を1語で表す
  • 東先生とのある日のやりとり:「パフォーマティブ」と「コンスタティブ」についての詮索

    なぜか,批評をやっている人たちの間では,言語行為論の初期にオースティンが講義 (How To Do Things With Words) で考案し,その同じ講義で放棄した「事実確認的発語(コンスタティブ)」と「行為遂行的発語(パフォーマティブ)」の区別が,いまも使い続けられている.(ここでは,この用語の定義には踏み込まない.) 3年前に,評論家・作家の東浩紀氏が次のようにツイートしたとき,少し質問をしてみたことがある.とくに目立つ発言を引き出しているわけではないけれど,記録のためにこちらにまとめておく.派手な喧嘩や批判を楽しみにしている人の期待にはまったく応えられないのであしからず. しかし、理系連中は文系をバカと決めつけているようだが、そういう人々は言語行為論とかコミュニケーション論とか勉強したことあるのか? 自然言語にはコンスタティブな真理値とは別にパフォーマティブな効果があるとか、知

    東先生とのある日のやりとり:「パフォーマティブ」と「コンスタティブ」についての詮索
  • どうでもいい話:不要本を片付けた

    ぼくもクソオタの端くれなので,これまで漫画・ラノベはそこそこ買ってきた.月日とともに増えていく物量は,たった2つしかない棚に収まるわけもなく,ダンボールにつめては押し入れに押し込んだり,机の下に積み重ねたり,トイレや玄関の壁面にちょっとしたタワーを立てたりしてきた.なにもしなければ,生活スペースは圧迫されていく一方だ. それでもここ何年かはマシになった方だった.裁断しては ScanSnap [Amazon] でスキャンして PDF にしてハードディスクに「お引っ越し」させてきたからだ.それでも急激に減るわけもなく,大多数はほぼ二度と読み返されることもないまま死蔵させてきた. ――が,とあるきっかけで,大幅に減らすことにした. 虫がわいたのだ. といっても,そのものにわいたわけじゃなくて,を積み重ねてる下のマットにうじゃうじゃとわいた.小さくて黒い虫を妙によく見かけるなと思って調べたら

    どうでもいい話:不要本を片付けた
  • はてしなくどうでもいい訳文:Cumings (1984)

    「搾取を語るなら論文を読め」(はてな匿名ダイアリー,2010年1月19日)とそれに応酬した「Re: 搾取を語るなら論文を読め」(はてな匿名ダイアリー,2010年1月23日)で,Cumings という人の文章を取り上げて議論をしている.訳文に少し問題があるように思ったので,ぼくならこう訳すんだけどな,というモノを挙げる――といっても,議論は4年以上前のことで,いまさらどうともならんだろうけど: Professor Eto remarks that Japan's vices were no different than those of European colonists. This may be true, but its virtues were quite different. There was no legitimizing myth that the Japanese coul

  • メモ:クルーグマン「なんで戦争なんかやっちゃうのか」(2014年8月17日)

    今日の『ニューヨークタイムズ』コラムで,クルーグマンがウクライナ情勢を中心に戦争の要因について述べている: Paul Krugman, "Why We Fight War," New York Times, August 17, 2014. とくに現代で戦争はまったく割に合わないのだが,それでも戦争は起こっている.なぜだろう? クルーグマンが挙げるのは,国民全般の利益には完全に反していたとしても,戦争によってときの政権は大きな支持獲得ができる,というインセンティブだ.とくに経済不振のもとで,そこから国民の注意をそらすはたらきがあり,これは政権にとって大きな誘惑になりうるとクルーグマンは論じる.また,コラム末尾では,中国について懸念を述べている. 以下,かるく文章をなぞっておく: 「すべての戦争を終わらせる最終戦争」と呼ばれた第一次世界大戦から1世紀がたった.だが,戦争は起き続けている.ウク

  • 文献メモ:スペルベル (2010) 「グル効果」("The Guru Effect")

    Dan Sperber (2010) "The Guru Effect," Review of Philosophy and Psychology 1 (4):583-592. [PDF] 表現が曖昧模糊として不明瞭なのは欠点だと考えられている.だが,知的グルたちの口話や文章では,そうでもない.往々にして,読者たちは自分が理解しかねた事柄は深遠なのだと判断する.この「グル効果」を説明するために稿が目を向けるのは,信用と解釈の心理,権威と論述の役割,そして集団のレベルで機能するときにこうした傾向・プロセスがもたらす効果である.集団のレベルでは,過剰解釈という暴走現象が生じることがあることを稿は論証する.

  • ピンカー on 知識の呪い

    Edge に掲載されたスティーブン・ピンカーのインタビューから,「知識の呪い」について話してる箇所だけ,抜粋して訳しました. 原文:"Writing In The 21st Century: A Conversation with Steven Pinker," Edge, June 9, 2014. ここに訳したものは授業のおまけとして用意したもので,この箇所でとくにすごいことを言ってるわけではありません. インタビュー全体は,この9月に発売予定になっている文章術の新著 The Sense of Style に書かれている内容のつまみいみたいな感じなんでしょうね. 他にも,意識しておくと文章が上手になれる心理学の話があります.ときに「知識の呪い」と呼ばれてる現象がそれです.これの呼び名はいろいろありますし,心理学者たちはなんども再発見を繰り返してきました.たとえば,「心の理論」の欠陥だ

  • 朝日新聞訳のクルーグマン・コラムに赤ペンを入れると

    めったに読まないんだけど,朝日新聞に掲載されていたクルーグマンの『ニューヨーク・タイムズ』コラムを読んだ.どうもいまいちヘタクソな訳だ. ポール・クルーグマン,「地球温暖化対策 障害は科学敵視の経済思想」,朝日新聞,2014年6月13日. 原文: "Interests, Ideology and Climate," New York Times, June 8, 2014. でも,ただ「ヘタクソだ」って言ってるだけだと,たんにぼくの好みの問題なのかどうか区別がつかない.そこで,3点だけ,改善すべきところを指摘してみよう. 第一に,単純な訳語の間違い:原文の "toxic" を朝日版は「毒々しい」と訳してるけど,ここは「有害な」でなくちゃいけない. 原文:"a toxic mix of ideology and anti-intellectualism" 朝日新聞訳:「イデオロギーと反知性主

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