アントナン・アルトーのデッサンと肖像画に触発されて、デリダは本書を一気に書き上げた。主題sujetは基底材subjectileだ。基底材とは何か? デリダはこう問いながら、解答をあたえるような真似はしない。「デリダのエクリチュールの真の凄味は、哲学によっても文学によってもとうていまともには語りうるような類のものとは思われないこの非=物語を、実際に物語ってみせたという点にあり、それは、観念の断片を並べて漠とした筋道をつけることでは絶対に追いつきようのない実践である」(訳者)。言語という基底材を猛り狂わせつつ、アルトーという事態、および翻訳不可能性という事態を解体構築した、目眩く言語パフォーマンスである。 アルジェリア生まれ。フランスの思想家。 高等師範学校卒業。脱構築、散種、グラマトロジー、差延などの概念を作り出し、ポスト構造主義を代表する哲学者と目される。『フッサール哲学における発生の問題