関東大震災直後の悲惨は震災直接の被害のみならず「第二の悲劇」で増幅されている。 いわゆるデマと流言が引き起こした虐殺事件である。これには朝鮮人のみならず日本人までもが多数巻き込まれ虐殺されることになった。 さて、このデマの出所について吉村昭の推察がちょっと興味深い。 いわく、いわゆる朝鮮人が「井戸に毒をいれている」「集団で暴動を起こしている」「爆弾を持っている」というデマは、横浜でおきた「横浜震災救護団」による集団強盗事件が出所として拡散していったのではないかというもの。 ドヤ街であった中村町に住んでいた立憲労働党の山口正憲という人がいる。この男が震災終了後すぐに、前述の「横浜震災救護団」を急遽組織し、震災後の物資獲得を名目に、日本刀や銃器などで武装し、横浜市内の商店を数十人で荒らしまわり、食料や金銭などを脅し取っていたというのだ。どうやらこれがデマの出所になったのではないか、それが吉村と
「君が代」と「日の丸」の違い 「君が代」は議論の絶えない「面倒くさい歌」である。では、具体的に「君が代」の何がそんなに問題になっているのだろうか。歴史をたどる前に、まずこの点を確認しておきたい。 戦後の日本で「君が代」問題といえば、ほとんど公立学校における扱いに終始するといっていい。すなわち、入学式や卒業式で、教職員や児童生徒は起立して「君が代」を歌うべきか否か、という問題である。 今でこそあまり聞かなくなったが、かつては3、4月にもなると定期的に各地の学校で教職員らが「君が代」斉唱に抵抗したという報道が繰り返された。1999(平成11)年に成立した「国旗国歌法」も、2011、2012(平成23、24)年に相次いで成立した大阪府市の「国旗国歌条例」も、そのきっかけになったのは公立学校の入学式や卒業式に他ならなかった。 法律の名前からもわかるように、「君が代」は「日の丸」と並べて語られること
リンク news.xinhuanet.com Aust'n gov't seeks legal advice after Japan defies whaling injunction - Xinhua | English.news.cn Australia's government has announced it will seek legal advice following Japan's decision to disregard an international court ruling which barred it from whaling in the Southern Ocean. (The date shown after the name of the State indicates the date of deposit of the declaration.)
『ブエノス・ディアス、ニッポン 外国人が生きる「もうひとつの日本」』を読んだ。*1 出版されて10年は経つが、いまだに古びていない。 それは喜ばしいことなのか(反語)。 野村進が書評*2でいうように、「激変する在日外国人社会の現状を知るためには必読の一冊」であり、「依頼人の七割以上が在日外国人という現役ばりばりの弁護士」が、「複雑多岐な実例をあげつつ、われわれが毎日のように見かける外国人たちが、日本で何を思い、どんな問題に苦しんでいるかを伝えてくれる」という、初心者から上級者(??)まで、おすすめの一冊である。 先行する他ブログの書評http://d.hatena.ne.jp/gkmond/20090225/p1で指摘されているように、「著者は何かを強制するというやり方を信じていない」のはその通りだろうし、「決して一方的に我々を糾弾する本ではない」のもその通りだろう。*3 ただ、「俺たちが
よい議論のためのルールとメソッドを、懇切丁寧に説いた好著。類書と一線を画しているのは、ルール破りや詭弁術の見抜き型・対策まで網羅しているところ。議論の技術とは、ルールブレイカーを追い詰める技術なのかもしれない。 「よい議論」とは、主張のメリット・デメリットを掘り下げ、お互いにとって望ましい結論を導き出せる話し合いのこと。言いたいことをまくし立て、声の大きさやマウンティングで勝ち負けを決めるようでは失格だ。残念ながらそういう輩は会議室に跋扈しているものの、マシンガントークや詭弁使いにとどめを刺す方法も書いてあるのでご安心を。 議論の技術は5つの基本技術から成り立つという。 伝達の技術 相手に分かりやすい話し方 傾聴の技術 議論の流れを正しく把握する 質問の技術 論点を深める効果的な聞き方 検証の技術 間違った意見に惑わされない方法 準備の技術 シナリオを作り予防線を張る ロードマップやラベリ
昨年,大学の教養の授業に「生命科学」という講義があったため,何人かの友人から「生物学の手頃な入門書って何?」という質問を受けました.そして,これが意外と答えに窮する質問で,自分は自信をもって推薦できる初学者向けの生物学の入門書を知らないということに気づきました. そこで最近,私は書店や図書館で30冊以上の生物学入門書を手に取り,あれこれと比較を行ってみました.今回は,その中で私が良いと思ったものを厳選して紹介することにします. 「初学者」といっても,生物に興味をもつ中学生や高校生,教養ではじめて生物に触れる大学生,あるいは社会人になるまで触れてこなかったが今から生物学を始めたい人など,色々なケースがあるはずです.選考にあたってはこの点を考慮し,それぞれが趣きの異なった特徴をもつものを配列するよう工夫をしました. 生命科学概論 生命科学概論―環境・エネルギーから医療まで 作者: 早稲田大学先
「すべての人間が一カ所に集まってジャンプしたらどうなるか?」など、ふと気になっても、「いや、そんなことはありえない」と、うっちゃってしまうような疑問や、「周期表を現物の元素で作ったらどうなるか?」など、突拍子もない疑問に、科学と数学と、シンプルな線画のマンガを使って答える本。アメリカでは、サイエンス系の本としては破格の大ヒットで、ニューヨークタイムズのベストセラー・リストに34週連続で載った。 著者のランドール・マンローは、大学で物理学を学んだあとNASAでロボット工学者 として働いた人物。現在はフルタイムのウェブ漫画家で、「恋愛と皮肉、数学と言語の ウェブコミック」、xkcdというサイトを運営している。そこから派生した読者投稿サイト、xkcd What If が本書のベースだ。マンローは投稿される疑問に、数学と科学、そして「ユーモア力」を駆使して、あっと驚くような答えを出す。その過程で、
著者の新屋さんから技術評論社の「正規表現技術入門」を頂きました。 これはいい本ですね。特に第2章で語られている、正規表現がどうやって生まれてきたかという話がよいです。僕も拙著「コーディングを支える技術」の続編に向けて、正規表現の歴史を書こうとしたことがあったのですが、僕が書こうと思っていたもの以上によいものに仕上がっています。しかも20ページとコンパクトにまとまってて、もう、僕がこれに関して書く必要はないなぁ、とうれしいようなさみしいような。パイプとgrepの関係は知らなかった、面白い。 第1章で60ページぐらいで正規表現の基本的なことをおさえてくれているのもよいところです。正規表現を使う必要のあるプログラマはみんな第1章だけでも目を通しておくとよいのではないかな。 正規表現がフォーマルにはどう定義されているものなのか。この話題は、コンピュータサイエンスを大学で学んだ人にとっては常識の範疇
私はこれまでカール・シュミットのよい読者ではなかった。ずいぶん昔に橋川文三の訳した『政治的ロマン主義』(未来社)を読んだことがあるが、そこから特別な刺激を受けた記憶は残念ながらない。ただ私が長年自分の中心的な課題として追ってきたW・ベンヤミンの『暴力批判論』、あるいは『ドイツ悲劇の根源』にはシュミットの影響が見られること、とくに日常的な法秩序に停止状をもたらす「例外状態」をめぐるシュミットの議論とベンヤミンの「神的暴力」のあいだには深いつながりが存在することは、ベンヤミンが『暴力批判論』において抉り出そうとして革命の根源的な意味や、今までの法状態を一挙に破壊する憲法制定権力の行使の意味などの問題との関連も含めて気にはなっていた。とはいいながらナチスに自ら協力し、戦後、起訴されなかったとはいえニュルンベルク裁判の被疑者として取調べも受けたシュミットの著作を到底素直な気持ちで読む気にはならなか
5月11 坂井豊貴『多数決を疑う』(岩波新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 サブタイトルは「社会的選択理論とは何か」。単純な多数決の問題点を指摘し、その代替案、さらには多数決に依拠している現在の政治のこれからのあり方を問う非常に面白い本になっています。 個人的にこの本が素晴らしいと思った理由は2つあって、それは(1)社会的選択理論を初歩から丁寧かつ明晰に説明している点、(2)明晰であるがゆえに著者との根源的な政治観や人間観の違いが明らかになって政治に対する認識がより深まった点、の2点です。 まずは(1)の部分から。 社会的選択理論の入門書というと、佐伯胖の『「きめ方」の論理』あたりが有名だと思いますが(佐伯胖の本では「社会的決定理論」となっている)、さすがにもう35年も前の本ですし、何よりも300ページ近い、それなりに専門的な本です。 また、社会的選択理論に触れた本の中には、いきなり「
さすがは山本義隆、と唸るしかない一冊だ。これが予備校での講演録だというから恐れ入る。原子とは何か、原子核とは何か、が、アリストテレスにはじまり、発見の歴史的経緯を追いながら丁寧に説明されていく。多少の数学と物理の知識は必要かもしれないが、古典力学から説き起こされる原子や原子核の話は直感的に捕らえやすく、決して難しくない。 そして、最後は原子力について。核分裂の発見から、原子炉の開発、そして、原子爆弾。もちろん原子力発電の問題についても論じられている。あぁ、なるほど、この本を読むと、山本義隆が『磁力と重力の発見』で大佛次郎賞を受賞した時の、何のために勉強するのかについて語ったこの言葉がすとんと腑に落ちる。 専門のことであろうが、専門外のことであろうが、要するにものごとを自分の頭で考え、自分の言葉で自分の意見を表明できるようになるため。たったそれだけのことです。そのために勉強するのです。 原子
未完のファシズム 「持たざる国」日本の運命 (新潮選書) 著者:片山 杜秀 出版社:新潮社 ジャンル:新書・選書・ブックレット 未完のファシズム 「持たざる国」日本の運命 [著]片山杜秀 現在の日本には、つぎのような見方が行き渡っている。それは、日露戦争までの日本人は、合理的・現実的・普遍志向的であったのに、以後、日本人は非合理的・非現実的・反普遍的となってしまった。ゆえに、日露戦争までの日本人のあり方を参照すべきである、というものだ。本書は、そのような司馬遼太郎的史観をくつがえすものである。 たとえば、日本人が日露戦後に非合理的・精神主義的となったのは、第1次大戦を十分に経験せず、日露戦争の体験を通して世界を見ていたからだといわれる。確かに、日本軍は青島要塞(ようさい)の攻略においてドイツ軍に楽勝したように見えるが、それは日露戦における旅順要塞の惨劇をくりかえさないために、軍の近代化をは
朝日の慰安婦問題「誤報」騒動に便乗して、新聞の拡販団に配らせたと言うことだけが話題の、内容も体裁も薄っぺらな本である。読売がここまで歴史修正主義にどっぷりつかっているとは意外であったが、これは、単に私が普段、新聞を読まないからだろう。 内容は、産経やWILLの記事を水で薄めたようなもので、「朝日がついたこんなウソ」というストーリーを、手を変え品を変え、読者にシツコクシツコク刷り込むという基本的な手法は全く変わらない。ドブの水をいくら薄めた所で、所詮はドブの泥水である。 実は、読む前は記事について、詳細に反駁しようと考えていたのだが、さすがにバカらしくなってきた。内容は秦郁彦氏の「慰安婦の戦場と性」のストーリーをそのままなぞったもので、それ以上でもそれ以下でもない。系列のBS日テレで放送された、アジア女性基金の下村理事の話が載っているが、物議をかもした橋下大阪市長の慰安婦問題の発言の擁護、河
社会運動は「戸惑って」いるのか? あるいは、「失われたもの」をどのように取り戻すのか? 田村哲樹 政治学 / 政治理論 社会 #社会運動の戸惑い#男女共同参画政策#フェミニズム#バックラッシュ#ジェンダー・フリー 本書『社会運動の戸惑い ―― フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(山口智美・斉藤正美・荻上チキ)は、2000年代前半に起こった、男女共同参画政策とフェミニズムに対する「バックラッシュ」と呼ばれた保守系反フェミニズム運動の「具体像」(341頁)を明らかにしようとするものである。 著者たちによれば、これまでの女性学・ジェンダー学の研究において、実際の保守運動の調査は行われておらず、そうであるがゆえに、「バックラッシュ」を担う人々について「当て推量」で論じられてきた。その結果、それらの人々は「自分たちとは著しく異なる他者」(44頁)だというイメージが形成されてきた。 これ
慰安所の前で巻脚絆(ゲートル)を外し順番を待つ兵士たち 場所:中国、時期:1938年頃 出典:村瀬守保写真集『私の従軍中国戦線 一兵士が写した戦場の記録』(初出:日本機関紙出版センター,1987年)新版:2005年 慰安婦は「自発的に応募した」「自由意志だった」「強制ではない」、さらには軍や警察は「違法な業者を厳しく取り締まっていた」等々、慰安婦問題を否定する人々によって熱心に宣伝されているデマがありますが、そうした人々が無視している資料に、元日本軍将兵・軍属が手記や証言のなかで慰安婦に言及している口述資料というものがいくつも存在します。 それら口述資料*1を用いて個々の事例を考察していきます。 以下、 引用文の中略には「……」を入れています。強調、改行は引用者によります。 最初に紹介する証言は、秦郁彦氏が著書『慰安婦と戦場の性』のなかで「信頼性が高いと判断してえらんだ」もののひとつです。
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