1990年代の末、生まれ故郷の河南省の農村から上海に出てきて、それから足かけ30年あまり、廃品回収をして生きてきた農民工のゼンカイさん(44歳)が、上海の「異変」に気付いたのは、2018年の夏の終わりごろだった。 かつてに比べ人通りが少なくなり、夜も8時ごろになると町が真っ暗になり閑散としてしまう、というのだ。 この話を彼に聞いたのは2018年9月末。ちょうど、中国では春節(旧正月)に匹敵する年中行事として大切にされている中秋節の3連休のことだった。 「だって、こんなに寂しい中秋節って、記憶にあるか?」 夕食を共にする上海の都心部、静安区にあるレストランに向かってゼンカイさんと並んで歩きながらそう言われ、私は改めて町を眺めてみた。確かに、まだ午後8時前だというのに、町は灯りが少なくて薄暗く、人通りもまばらだった。 中国で中秋節は家族のイベントで、自宅で家族と食事を共にすることが多い。それで