満員の市バスに揺られながら昇仙峡に着く。水晶、翡翠に信玄餅、祖父母が生前、たまに土産として買っていたのも、きっとこの辺りだったのだろう。明らかに以前、くぐった覚えのある土産物店に挟まれた入り口を抜け、少し進むと、仙娥滝(せんがたき)が美しく激しく落ちていた。 「仙娥」とは、中国で月に昇ったとされる女性、嫦娥(こうが 第29回)を指す。もしかしたら、ここは元より「センが滝」という語構成をもつ地だったものかもしれないと想像してみたりもする。こうしたものは、概して漢字表記に惑わされてはならない。「木賊(とくさ)峠」も、山賊が隠れているように旅行者には見えてきてしまうことがあったのだが、「長潭橋」(ながとろばし)、「昇仙峡」など、古人の漢学の知識が現れているようにも見える。前者は、現地では「長潭(とろ)橋」とも書かれているが、「長とろ橋」となったものもあった。漢字は違えど、埼玉の「長瀞」と、語源は