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ブックマーク / www.nagamura.jp (80)

  • その1:筆押さえの有無について (明朝体・考)

    まず最初に「筆押さえ」を取り上げる。 表外漢字字体表の例字字形では,平成明朝体にあった筆押さえがすべて取り去られた。表外漢字1,022字の中から,オリジナルの平成明朝に筆押さえがある文字と表外漢字字体表の文字を並べて比較してみよう(下図)。 筆押さえの有無については常用漢字表でデザイン差と明記しており,表外漢字表においても常用漢字表の考え方を基的に踏襲して同様の解釈をしている。表外漢字字体表(印刷標準字体)は字体を規定したものであるから,デザイン差レベルの字形変更の意味があるとは思えない。 とくに表外漢字字体表制定にあたっては文化庁の『明朝体活字一覧』を参照しているのであるが,ここに収載された活字でしかるべき箇所に筆押さえがない文字はほとんどないはずだ。それにも関わらず恣意的に筆押さえを排除した。なぜであろうか。かなり想像を逞しくしてみたものの真意は謎である。むしろ他の方針との矛盾

  • 表外漢字字体表における字形変更 (明朝体・考)

  • ふたたび「非」の字形問題 (明朝体・考)

    新年明けましておめでとうございます。 今回で78回目を数えます,いよいよ明朝体考現学の話題も佳境に入っていきますので,年もよろしくお付き合いください。 さて, すでに「非」の字形について二回ほど取り上げた。いわゆる4画目の「出る・出ない」問題である。この差がデザイン差であることは常用漢字表の解説にも明記されている。 そして,表外漢字字体表の「参考」の中の「表外漢字における字体の違いとデザインの違い」で,常用漢字表のこの箇所を再掲した上で「表外漢字における該当例」で,“誹”を例に挙げ,4画目の「出る・出ない」はデザイン差であるとしている。 つまり常用漢字であろうと表外字であろうと,この差はデザイン差だと明確に規定しているのである。 デザイン差というのは,たとえば書体が変われば揺れるものだということである。同じ明朝体であってもA明朝体は「出している」が,B明朝体が「出さない」とい

  • まず「常用漢字表」の解説を検証する (明朝体・考)

    « まとめ | Main | ふたたび「非」の字形問題 » 2007年12月29日 …【表外漢字字体表の「字形問題」】 まず「常用漢字表」の解説を検証する これから何回かにわたって『表記外漢字字体表』における字体差/デザイン差を論じようと思う。もちろん,もとよりこの字体表の存在意義自体を批判したり否定するつもりはまったくないが,この字体表の例字字形と,この字体表の解説については大きな問題を感じざるを得ない。そして,この問題が日の漢字行政にも少なからぬ影を落としていると考えるのである。 この「問題」を論ずる前に『常用漢字表』について指摘しておかなければならないことがある。常用漢字表には「(付)字体についての解説」という項があるが,この中の「第一 明朝体デザインについて」では,常用漢字表では,個々の漢字の字体(文字の骨組み)を,明朝体活字の一種を例に用いて示した。現在,一般に使用されている

  • まとめ (明朝体・考)

    白川静先生は,「字統」,「字訓」,「字通」の辞書3部作を世に問うた後,『字書を作る』(平凡社刊)を上梓した。この中からいくつかの箇所を引用して,このシリーズのまとめとしたい。いまの漢和辞典の問題点や字典のあり方について示唆に富むと考えるからである。文字を古代学的な立場から理解しようとする試みは,かつてなされたことがなかった。それは[説文]の字形学の権威があまりにも強く,新しい文字学の方法の導入を,容易に許さない状況にあったことも,その一因であろう。たとえば[段注]では[説文]を殆ど経典として扱っており,また章炳麟のように,音韻学に新しい発想をした人でも,甲骨文・金文はみな偽作,信ずべからずとするなど,新しい資料に拒絶反応を示している。しかし資料的には,甲骨文・金文をこそ信ずべきであり,[説文]の依拠した篆文は,古代文字が字形的に整理された最終の段階のもので,すでにその初形を失っているところ

  • 新潮社『新潮日本語漢字辞典』発売 (明朝体・考)

    9月末に新潮社から『新潮日語漢字辞典』が発売された。同社の創立110周年記念出版ということで,かなり力が入っている。 従来の漢和辞典とは意識的に趣を異にした編集方針を採っており,その挑戦的スタンスには敬服する。 その特徴には多くの同意できる点があるものの,やや問題を感じないわけにはいかないものもある。それらの「特徴」を簡単にレビューしておきたい。 巻頭の「刊行にあたって」には,これまで日で刊行された漢和辞典は、一般の日人とは縁遠いものでした。漢和辞典のほとんどは、中国の言葉を、それも古代の中国語を日で学ぶための辞書だったからです。したがって、日で育った漢字の字形、意味、熟語などを引こうとしても、載っていないということがしばしばあったのです。 そもそも、中国語は外国語の一つです。私たちは『新潮日語漢字辞典』を、その中国語としての漢字ではなく、「日語としての漢字」を知るた

  • 「人」か「入」か (明朝体・考)

    漢字の部分字形としての「人」と「入」は,よく置換対象になる。「内」もいろいろに解釈されるが,旧字体では「入」につくる。啓成社版の大字典では,わざわざ【注意】として「俗に冂と人の合字とす。されど字は入に従うべし」と記している。部首も「入」である。康煕字典においても部首「入」,実際の字形も冂+入となっている。しかし,これを「人」につくる辞典もある。 さて,全字形の「内」はまだよいとして,部分字形となった場合に中が「人」なのか「入」なのかがわかりにくいデザインを見かける。それは漢和辞典の中にも散見される現象である(屋根付きだからと言って「入」と断定することは間違いである)。 とくに「兩」や「齒」が部分字形になった文字などは,もともとデザイン領域が狭いために,よほど意識してデザインしないとどちらなのかがわからない文字になってしまう。 漢和辞典の親字デザインは辞書編纂者とフォントデザイナーの

  • 「非」の4画目問題 (明朝体・考)

    左図に示すのは角川書店発行の雑誌『俳句』と富士見書房発行の雑誌『俳句研究』の背表紙(部分)であるが,両者の「俳」字の字形が若干違っていることがわかる。旁「非」の4画目、すなわち左下の右ハネアゲ収筆部が3画目を貫いているかどうかという瑣末な差だが,ほんらいはどれが正しいのだろうという疑問を持つ人もいるに違いない。 「どちらでも良い」というのが正解だが,そうは思わないという人がいたとしても不思議ではないのである。この文字は常用漢字であり,『常用漢字表』の例示字体では「出ていない」ので、多くの書体設計においては,この例字字形を踏襲して「出さない」デザインにしているのである。JIS例字字形においても例外ではない。 ところで常用漢字表の「(付)字体についての解説」の中で,常用漢字表では,個々の漢字の字体(文字の骨格)を,明朝体活字のうちの一種を例に用いて示した。現在,一般に使用されている各種の明

  • 異体字生成の法則はあるか (明朝体・考)

    « 上下逆さ字形の文字に関する補足 | Main | 「非」の4画目問題 » 2007年11月01日 …【最近の話題】 異体字生成の法則はあるか 閑話休題。 世の中には面白い法則があるものである。10月31日付け日経済新聞夕刊1面コラム「明日への話題」では,脳研究者の池谷裕二氏が担当して書かれているが,その中で言語学者のペイゲル博士の最近の研究成果を紹介している。 それによると,ペイゲル博士は100以上の印欧語の単語を丹念に調べた結果,「使用頻度の低い単語ほど変化が速く,その半減期は使用率の平方根に比例する」ことを突き止めたという。 これは表音文字圏の単語の発音に関するものだが,それでは漢字の字形変化はどうだろう。ペイゲル博士の研究対象は「半減期」という表現に示されるように時系列的に変化していく語であるが,漢字の異体字というものは時代を超えて並存するものもかなり多いので同じモデルで

  • 上下逆さ字形の文字に関する補足 (明朝体・考)

    上下が逆さになった字形を持つ文字について述べた。明朝体にしてしまうと,どういう筆法かが読み取れない。いままで何回も述べてきたように,現在の日における規範書体が明朝体である以上,漢和辞典は明朝体で親字を表記せざるを得ず,したがって特段の説明がないかぎり辞典から筆法を知ることはできない。このことについても前回記したとおりである。 漢字を知るための辞典として漢和辞典があるのだとしたら,こうしたことも問題視しなければならない。どうも現今の漢和辞典でさえ,明治期の目的をそのまま無批判に踏襲しているように思われてならないのであるが,これは要するに出版社の努力不足なのではないか,という問題提起でもある。 さて,それはさておき(この問題は,別途詳細に論ずる予定なので)上下が逆さになった字形は,いったいどのように書くのだろうという疑問に関する補足をしておきたい。「苦しいときの『大書源』頼み」というわけ

  • 上下逆さの文字 (明朝体・考)

    前回,大漢和辞典の文字番号16274を例に挙げて画数問題を論じた。この文字の冠部は「止」を上下逆さにした字形であったが,この冠部の中央縦画起筆部には墨溜りを持たないし,二番目の横画収筆部にはウロコはない。しかし明朝体様式では,こうした表現はよくある。字形的にとくにおかしいところはない。唯一,右上の転折部を示す形状が角ウロコであるから,その形状を是とするのであれば画数が違うということを指摘したのであった。 数ある漢字の中には,ある漢字またはその部分字形の上下が逆になった字形を持つものがある。大漢和辞典の文字番号16274もそのうちのひとつと言える。「上」と「下」も,そういう関係にある文字と解釈したとしてもあながち間違いとは言えない。 しかしもっと顕著な例がある。たとえば「或」を上下逆にした文字がかなりあるのである。少し例示してみよう(画像をクリックすると拡大表示されます)。 ところで,

  • 字形表現と画数属性 (明朝体・考)

  • 漢和辞典における漢字の画数属性 (明朝体・考)

    « 見掛け2画表現について | Main | 字形表現と画数属性 » 2007年10月06日 …【漢和辞典の字形を「斬る」】 漢和辞典における漢字の画数属性 言うまでもなく漢和辞典を引くときには総画数を拠り所とすることも多い。中には部首が何なのかがわからない漢字があるからである。それは,部首に対する知識不足だけではなく,部首そのものが文字字形の実態に合っていない場合も多くなっていることにも関係する。さらに漢和辞典によって同じ文字の部首が異なるというものも珍しくない。したがって総画数を拠り所とすることは否定されるべきものではないのである。 しかし,それならば漢和辞典の画数属性はつねに正しいと言えるのだろうか。あるいは,漢字の字形表現は画数を正しく計数することができるようにデザインされているものなのであろうか。 後者については,このBLOGにおいても「敝の画数について」(2007年4月1日

  • 見掛け2画表現について (明朝体・考)

    « 不思議なカクシガマエ(補足その2) | Main | 漢和辞典における漢字の画数属性 » 2007年09月25日 …【漢和辞典の字形を「斬る」】 見掛け2画表現について さらに重箱の隅をつつくようだが,明朝体様式のひとつである「見掛け2画」に関してみてみたい。 見掛け2画でよく例に出されるのが「衣」である。この4画目が2ストロークに見える。これが見掛け2画と呼ばれているものである。 漢字には「形・音・義」の3要素を持ち,さらに形(すなわち字形)には部首とともに画数という属性がある。字形がきわめて似ていても画数が違う文字はたくさんあり,また,漢和辞典を引く際にも画数を拠りどころとすることが多いので,漢字の画数というのは日常生活の場でも非常に重要な属性情報である。 この観点からは,上述の「見掛け2画」はややこしい問題を引き起こす。これと同じ問題が,いわゆる「ゲタ」の存在にもみられるこ

  • 不思議なカクシガマエ(補足その2) (明朝体・考)

    9月10日の「不思議なカクシガマエ(補足)」で通常のクニハコガマエ,カクシガマエと「ウロコ付きカクシガマエ」(これが不思議なカクシガマエなのだが)の違いを図示して説明した(右図に再掲)。しかし日の近代漢和辞典の字形が『康煕字典』からはじまった以上,この字形に触れないわけにはいかない。それと『大字典』の両カマエについても見ておきたい。それらを並べて見ると,なぜ「不思議なカクシガマエ」なのか,という実態に迫れそうな気がする。 まず上図に『康煕字典』のクニハコガマエとカクシガマエを示す。両者ともエレメントはよく似ており,違いは左上の1画目と2画目の接し方のみである。 つぎに『大字典』のクニハコガマエとカクシガマエを下図に示す。『康煕字典』の字形とはかなりイメージが違うが,これもまた左上の1画目と2画目の接し方を除き,両者のエレメントは非常によく似ている。 つまり,『康煕字典』,『大字典』

  • 「區」のカマエについて (明朝体・考)

    9月6日付の「不思議なカクシガマエ」で『大字源』のウロコ付きカクシガマエを取り上げ,この字形が異質であることを指摘した。さらにそこでは「他の辞典にはほとんど現れない形」と書いた。しかしこの説明だけでは誤解を与える。この形のカクシガマエは『大字源』の専売特許ではないのである。 さらに『大字源』においても,カクシガマエのすべてがウロコ付きというわけでもない。 そこでまず「區」という文字を例に,辞典によるカマエの形状の違いと「ウロコ付きカクシガマエ」の存在を確認しておきたい。 この問題については,このBLOG開設のきっかけになった国際大学GLOCOMでの講演で取り上げたので,ここではあえて触れなかったのだが,正しい理解を得るためにも,もう一度ここで論じておくことにしたものである。 漢和辞典で「區」という漢字を引くとする。辞典によって,その字形はまさに区々である。少し例示してみる(下図をクリ

  • ケータイが辞書代わり? (明朝体・考)

    少し日にちがたってしまったが,今月8日の日経済新聞朝刊に「漢字調べ、若者は携帯で」という記事が載った。 漢字の書き方がわからないときに,二十代の若者の約八割が携帯電話の漢字変換機能を用いて調べているということが,文化庁の「国語に関する世論調査」でわかったというのである。これにはあらためてビックリさせられた。 たしかに最近のケータイの文書作成支援機能は非常に便利になってきて,最初の二,三文字を入力すれば多くの候補文字が次々に現れるから,「辞書代わりになる」というのも頷ける。しかしケータイの画面では文字によっては一点一画までは正確に表示されない。いい加減さがますます助長されるのではないかと心配になる(写真は同記事より転載)。 しかしそれよりも,数多くの漢和辞典を,あたかも自分の身体の一部のように使っている身にとっては,そもそもケータイで漢字を調べるなどということ自体,とても考えられなかっ

  • 不思議なカクシガマエ(補足) (明朝体・考)

    前回,クニガマエとカクシガマエの中間のようなカマエについて述べた。その形状は一般的な明朝体様式からは外れており,これを「ウロコ付きカクシガマエ」と呼んで,ややもすれば字形解釈上の混乱を招く虞があることを指摘した。 しかし,この独特ともいえるカマエの実際の形状が,説明用の図の表現力の問題でよくわからないものとなっていたようであった。そこで,この字形について補足することにした。 上図を見ていていただければ一目瞭然であろう。左は通常の「クニガマエ」,つぎは,これも通常の「カクシガマエ」だが,問題は右のカマエだ。この形のカマエは他の辞典には現れないものである(現存するすべての漢和辞典に当ったわけではないが)。辞典による解釈の差はあるものの,クニガマエとカクシガマエの位置付けは部首としてもはっきりしている。しかし右のカマエは様式から逸脱しているだけに困るのである。 前回は検字番号4355の文字

  • 不思議なカクシガマエ (明朝体・考)

    伝統的な部首の中にハコガマエ(匚)とカクシガマエ(匸)がある。もともとはまったく別モノなのであるが,新字体・旧字体の差の指標にしている辞典もあり,字形解釈上も気をつけなければならない。 ところが,ハコガマエとカクシガマエの中間的とも言える字形を採用している漢和辞典がある。今回取り上げるのは角川『大字源』である。 左図を見ていただきたい。これはお馴染みの「区」の新字体と旧字体であるが,新字体(検字番号898)がハコガマエであることは当然として,旧字体(検字番号897)のカクシガマエが一種独特なのである。カクシガマエの2画目転折以降が横画になって収筆部にはウロコまで付いている。まさにハコガマエとカクシガマエを足して二で割った感じの字形である。他の辞典ではほとんど現れない形だ。私はこれに「ウロコ付きカクシガマエ」と命名している。 文化庁の『明朝体活字字形一覧』には,「区」の旧字体として,モ

  • 二つの「二」 (明朝体・考)

    漢和辞典の親字は例外なく明朝体である。しかし,中にはどうしても明朝体にみえない文字もある。今回も『大漢和辞典』を対象とし,その中から明朝体にはみえない「問題字」を挙げることにする。 『大漢和辞典』の文字番号248~250の3文字は次のような字形である(図をクリックすると拡大表示されます)。 どうみてもゴシック体にしか見えない。ほんとうにこんな字形の文字なのか。 大漢和248の文字は「上」の古文であり,大漢和249の文字は「下」の古文である。ちなみに古文とは周・春秋戦国時代の金文を指すことが多いようであるが,「説文古文」と言われるものは孔子の旧宅を壊した跡から得たといわれるものである。 「上」と「下」の古文は『康煕字典』では次図のように表記されており,これならば明朝体表現といって差し支えない。 しかし,この表現を踏襲すると,とくに大漢和248の文字は漢数字の「二」と区別が付かないこと