*1 ――つねにわたしたちの論拠は〈児童文学〉という限定された、しかも複雑怪奇とまでいわれるほどに特殊な分野であって、そこに生起するさまざまの事象は文学一般の概念規定とはくい違うほどに独自の、偏狭な意味内容をもつ曖昧なことばによって表現されることが珍しくないのだ。*2 ――これはこの世におよそ存在すべくもない物語である。この一家のような善意が存在しないというのではない。そういう善意ならむしろこの世にはありふれていて、人がよくて感傷的な人間がそういう善意の発作にとらえられるのはめずらしくもない出来ごとである。しかし、そういう善意の発作が最後まで貫徹されることがけっしてありえないことを、人びとはわが身の経験として知っている。*3 ――要するに、現在、われわれは、説話の具体の世界から、文学の抽象の世界へ到達し、さらにまた、文学の世界を踏まえて映画やラジオやテレビの具体の世界へ飛躍しつつあるのでは