あるタイトル戦でのこと(旦那から聞いた話)。 いつものようにメニューの中から好きなおやつを注文し、わくわくしながら到着を待っていた。 すると、運ばれてきたおやつが自分のと佐藤さんのと逆に置かれた。 「いやっ、僕モンブラ…」 指摘する暇もなく、仲居さんは対局者に気を利かせ、足早に静かに部屋を去った。 対局室には自分と佐藤さんの二人だけ。 「…あの、そのモンブラン、僕のですよね?」と佐藤さんに言おうか。 それとも気づかないふりしてフルーツルージュを食べるか。 しかし盤上を読みふけっている佐藤さんが突然顔を上げ、「あ、僕のフルーツルージュ」と言ったら大変だ。 相手の動向をじっとうかがう。 佐藤さんは一心不乱に盤上を見つめている。 僕はモンブランを見つめている。 佐藤さんの手が伸びる。 「あっ…」 モンブランが口の中に運ばれるのを見届けてから、泣く泣く諦めてフルーツルージュに手を出した。 別のタイ