幻の島 2011年の夏、初めて根室半島の沖合に浮かぶユルリ島を訪れたとき、そこで眼にしたものは、失われゆく根室の自然を色濃く残した風景と、かつて昆布漁や馬産地として栄えたこの土地の歴史や風土が刻んだ痕跡であった。それらは、深い霧の中に埋もれ、忘れ去られ、ひっそりと沈んでゆく夕陽のように淡く僕を照らした。その残火のような光を写真の中に留めたことが、“消えゆくものたち”と交わした最初の対話だった。島の馬はいなくなる。そして、島の存在も忘れ去られるだろう……。あの夏、僕はいままさに終わりを告げようとする残照の中、一人、草原に立っていた。 “消えゆくものたち”との対話は静かに続いた。季節は淡々と島の上を通り過ぎ、僕はそのいくばくかの時間を馬とともに過ごした。島を覆う海霧が草原の中へと消えゆくと、野花は葉を落とし、馬は冬毛をまとい冬支度を始める。やがて島の空に雪が舞い、色あせた草原が白く塗り替えられ