被災地の怒り 「河北さん、一体何やってんのすか。報道してくんねえなら、新聞取んのやめっつぉわ」 台風19号の被災地で、水没した自宅を見に来ていた男性に声を掛けられた。地区の被害実態が全く報道されないため対応が遅く、排水が進まず自宅に戻ることができないのだという。 翌朝、新聞に記事を掲載した。国や宮城県が即座に動き、県南に集中していた排水ポンプを県北に多数振り向けた。作業は徐々に進んだが、地区全体の浸水が解消されたのは台風通過の10日後だった。 8年前の東日本大震災の記憶がよみがえる。岩沼支局に在任中の当時は沿岸2市2町が管轄だったため、発災後に亘理、山元両町の取材にかかりきりになり、お膝元の岩沼市の被害を伝え切れずにいた。 「市内の被害が全く報道されない。何とかしてくれないか」。紳士的な当時の市長は言葉こそ丁寧で穏やかだったが、眼光に怒りが見えた。もちろん翌日以降は被害を手厚く報道した。