カッシーラー:危機を生きる精神に学ぶ 馬原潤二著『エルンスト・カッシーラーの哲学と政治──文化の形成と〈啓蒙〉の行方』によせて エルンスト・カッシーラー(一八七四~一九四五)の名は、『啓蒙主義の哲学』や『認識問題』など、数々の翻訳書を通して日本でもよく知られている。ところが、意外なことに、この著名な哲学者に関する日本語による研究書は、管見によれば、本年九月に出版された一冊しかない。それに続いて出版される本書は、日本におけるカッシーラー研究を大きく前進させる一書である。 エルンスト・アルフレート・カッシーラーは、一八七四年、西プロイセンの中心都市ブレスラウのユダヤ系ドイツ人材木商の家に生まれた。早熟な知性の持ち主であったカッシーラーは、ベルリン大学の私講師であったゲオルク・ジンメルのカント講義に感銘を受け、彼の薦めにしたがって、新カント派の指導的哲学者ヘルマン・コーヘンのもとで哲学のキャリア