タグ

ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (20)

  • 文学は精神に作用するテクノロジーだ『文學の実効』

    「文学は役に立たない」という人がいる。 データに基づく科学とは異なり、文学は主観的な解釈をベースとしており、客観性・再現性は低い。小説を読んでも、実用的ではないという主張だ。 そんな人に真向勝負を挑んでいるのが、書だ。 文学作品が人の心を動かすとき、脳内で起きている変化を神経科学の視点から解き明かす。感動は主観かもしれないが、客観的に計測でき、かつ再現可能なテクノロジーだと説く。 著者はアンガス・フレッチャー[Angus Fletcher]、神経科学と文学の両方の学位を持ち、スタンフォード大学で教鞭をとり、物語が及ぼす影響を研究するシンクタンクの一人である。 『オイディプス王』『ハムレット』『羅生門』『百年の孤独』など具体的な作品を挙げて、それらが脳のどの領域にどう作用し、それがどのような効果を及ぼしているかを説明する。 もちろん、受け継がれてきた作品は、それぞれの時代背景を反映している

    文学は精神に作用するテクノロジーだ『文學の実効』
    deadwoodman
    deadwoodman 2023/10/08
    “最初の直感に囚われた人を説得するとき、「それは先入観だ」と指摘するのは逆効果だ。…語りの反復や修正、語り直しの技法により認知不協和を促し、先入観を再考させる、文学のテクノロジー”
  • この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    「いつか読もう」はいつまでも読まない。 「あとで読む」は後で読まない。 積読をこじらせ、「積読も読書のうち」と開き直るのも虚しい。人生は有限であり、が読める時間は、残りの人生よりもっと少ない。「いつか」「そのうち」と言ってるうちに人生が暮れる。 だから「いま」読む。 10分でいい、1ページだっていい。できないなら、「そういう出会いだった」というだけだ。「いま」読まないなら、「いつか」「そのうち」もない。 に限らず情報が多すぎるとか、まとまった時間が取れないとか、疲れて集中できないとごまかすのは止めろ。新刊を「新しい」というだけの理由で読むな。積読は悪ではないが、自分への嘘であることを自覚せよ。「いま」読むためにどうしたらいいか考えろ。「」にこだわらず読まずに済む方法(レジュメ、論文、Audible)を探せ。難解&長大なら分割してルーティン化しろ。こちとら遊びで読書してるんだから、仕事

    この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
    deadwoodman
    deadwoodman 2022/12/02
    “過去の出来事を選び取り、つなぎ合わせ、合理的な解釈を導くモデルを作り上げ…行動の指針として役立ちそうな結論を引き出す…カーが擁護する「歴史家が作るモデル」は、カーが批判する「客観的な歴史」と相反”
  • 『ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう』はスゴ本

    意識は科学で説明可能か? このとんでもなくハードな問題に突入する。ギリギリ捻られる読書体験を請け合う。 著者は現役の哲学者、意識という現象を自然科学的な枠組みのもとで理解するという問題(意識のハード・プロブレム)に、真っ向から取り組んでいる。「物理主義」や「クオリア」、「哲学的ゾンビ」「意識の表象理論」を駆使して、科学・哲学の両方に跨がる難問に挑戦する。[wikipedia:意識のハード・プロブレム]に興味がある方は、ぜひ手にして欲しい。深く遠いところまで連れて行かれるぞ。 ハードがあるなら、イージーもある。流行りの認知科学にありがちな、MRIやCT、電気パルスを用いて、脳状態と意識経験の相関を明らかにする研究だ。例えば赤い色を見たとき、脳のどの部位がどのような状態になっているかを解明する問題で、これが意識のイージー・プロブレムになる。怪しげな脳科学者が、「脳はここまで解明された!」と宣っ

    『ぼくらが原子の集まりなら、なぜ痛みや悲しみを感じるのだろう』はスゴ本
  • おかしな議論にごまかされないための『論証のルールブック』

    『論証のルールブック』は、簡潔で説得力のある文章を書くためのルールが、50にまとめられている。1つのルールに1つの例文、1つの解説という構成で、このそのものが簡潔さを目指している。 ごく基的な常識レベルのものから、見落としがちな盲点まで、まんべんなく網羅されているのがいい。いくつか紹介する。 主張には根拠が必要だ 数字は他のエビデンスと同じような検証が必要だ 長文の論証や、口頭で伝える際、サインポストを活用する 論点先取の見抜き方 「主張には根拠が必要だ」なんて、当たり前すぎて、なにを今さらと感じるかもしれない。確かにその通りだろう。だが、実際に、事実のフリをした意見や、根拠レスの主張に出会ったとき、即座に見抜けるだろうか。 たとえば、この主張なんてどうだろう。 聖書に神は存在すると書かれているから、神は存在する 聖書は神が書かれたのだから、正しい これは、結論が前提に含まれた有名な例

    おかしな議論にごまかされないための『論証のルールブック』
  • ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』

    たとえば天下りマネージャーがやってきて、今度のプロジェクトでバグを撲滅すると言い出す。 そのため、バグを出したプログラマやベンダーはペナルティを課すと宣言する。そして、バグ管理簿を毎週チェックし始める。 すると、期待通りバグは出てこなくなる。代わりに「インシデント管理簿」が作成され、そこで不具合の解析や改修調整をするようになる。「バグ管理簿」に記載されるのは、ドキュメントの誤字脱字など無害なものになる。天下りの馬鹿マネージャーに出て行ってもらうまで。 天下りマネージャーが馬鹿なのは、なぜバグを管理するかを理解していないからだ。 なぜバグを管理するかというと、テストが想定通り進んでいて、品質を担保されているか測るためだ。沢山テストされてるならバグは出やすいし、熟知しているプログラマならバグは出にくい(反対に、テスト項目は消化しているのに、バグが出ないと、テストの品質を疑ってみる)。バグの出具

    ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』
    deadwoodman
    deadwoodman 2019/09/25
    “説明責任(アカウンタビリティ)は、もともと「自分の行為に責任を負う」という意味のはず。だが、一種の言語的トリックによって、測定を通じて成果を示すことに変わっていった”
  • 人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』

    貧富の差は拡大する一方。一向に格差の是正が進む気配はない。 日に限った話ではない。北米、南米、中国、東南アジア、アフリカ……世界中、至るところで格差は絶賛拡大中だ。格差の拡大は、人類社会の宿命なのだろうか? 古今東西の不平等の歴史を分析した、ウォルター・シャイデル『暴力と不平等の人類史』を読むと、これは事実ではないことが分かる。たしかに貧富の不平等はあるが、これを一掃する平等化が果たされる。人類の歴史は、不平等の歴史でもあるが、平等化の歴史でもあるのだ。 書の目的は、この平等化のメカニズムを解明するところにある。データと史料とエビデンスでもって緻密に徹底的に分析する。 不平等のメカニズム まず著者は、不平等は人間社会の基的特徴だという。人類が糧生産を始め、定住化と国家形成を行い、さらに世襲財産権を認めて以降、不平等が進むのは既定の事実だと述べる。なんとなくそうではなかろうかで済ませ

    人類を平等にするのは戦争『暴力と不平等の人類史』
  • 運が通れば道徳は引っ込む『不道徳的倫理学講義』

    たとえば、高速道路に「たまたま」飛び出した人をはねて死なせてしまったとする。ドライバーは「注意して運転していれば避けられたはず」として、過失の度合いが図られる。 あるいは、通勤中、「たまたま」通り魔に襲われたとする。「過失」を無理やり探すなら、その道を選んでしまったことになるのだろうか。 この「たまたま」が厄介だ。 それまでの善行・悪行に関係なく、「たまたま」悪い目に遭う。悪い結果になっていないのは、偶然に過ぎないのに、結果が「たまたま」悪ければ、悪い原因が遡及される。 理想の世界では、善人には報酬が、悪人には報復が与えられる。災厄に見舞われた人には埋め合わせとする幸福が与えられる。 だが、現実は違う。善悪と幸不幸が同期しない。現実は、むしろ運に左右される。そのため、善悪を語る場から、運を排除しようとする。 宗教や神話は、「神意」や「天命」と呼ばれる神の意志=運命を取り入れ、前世や来世の因

    運が通れば道徳は引っ込む『不道徳的倫理学講義』
  • 惑星と電子をつなぐもの『科学とモデル』

    惑星も電子も中学で習うが、そこで学んだ常識を疑うのは難しい。惑星は太陽のまわりを回り、電子は原子のまわりを回る、と考えていた。 ところが、みんな大好き量子論からすると不確定性が生じ、電子とは、惑星のように軌道を描いているよりも、雲のように確率的に分布する存在となる。 アインシュタインは「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションのこと」と述べたが、ラザフォードのモデルに太陽系を見てしまう「偏見」は、弦理論を学んだところで捨てるのは難しい。 Wikipedia 「ガイガー=マースデンの実験」By 投稿者自身による作品 (CreateJODER Xd Xd), CC 表示-継承 3.0, Link モデル=世界の一部? これは、モデルを通じて世界を見るあまり、「モデル=世界」が成立してしまっているからだ。教科書で学んだ原子核モデルはフィクションかもしれないが、太陽や月や星の動きを見た経験

    惑星と電子をつなぐもの『科学とモデル』
  • 「語りえぬもの」とは何か?『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考 』

    「語りえぬものについては、沈黙しなければならない」 ウィトゲンシュタイン『論理哲学論考』は、この一文で終わっている。 ウィトゲンシュタインは、この一文を証明するために『論考』を書いた。 すなわち、この一文が分かることは、『論考』が分かることに等しい。 何度も挑戦し、挫折し、さまざまな回り道をしてきたが、古田徹也氏が著した『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考』で、ようやくたどり着いた。やっと「分かった」と言えるようになった。 しかし、当に「分かった」のか? 独りよがりに陥っていないか? それを確かめるために、自分の言葉で説明しなおす。「語りえぬもの」とは何か? なぜ沈黙しなければならないのか? 「語りえぬもの」について、わたしの理解を確かめたい。 「語る」とは何か まず、「語る」について語ろう。ここで言っている「語る」とは、何か意味のあることを言葉で表現することだ。たとえば、 あの日見た花

    「語りえぬもの」とは何か?『ウィトゲンシュタイン 論理哲学論考 』
  • 山が好きだからといって善人とは限らない『闇冥』

    三大「〇〇好きに悪人はいない」のカウンターができた。 犬好きに悪人はいない → 『冷たい熱帯魚』 子好きに悪人はいない → 『IT』 山好きに悪人はいない → 『闇冥』 最初は、埼玉愛犬家連続殺人事件をベースにした映画園子温・監督・脚で、猟奇殺人事件に巻き込まれた男を描いたホラーだ。死体解体など凄惨なシーンもあり、R18+に指定されている。 次は、殺人ピエロの異名を持つジョン・ゲイシーから想を得た小説。みんな大好きスティーヴン・キングの長編で、映画にもなっている(リメイクされたハイ! ジョージーが有名やな)。怖さなら小説を、おぞましさなら、実話のほうWikipedia[ジョン・ゲイシー]をお薦めする。 最後は、今回お薦めの山岳ミステリアンソロジー。馳星周が選んだとあって、ノワールなやつから悲哀に満ちた作品までさまざま。ここでは、山岳ミステリの傑作とも言われる、松清張「遭難」について紹

    山が好きだからといって善人とは限らない『闇冥』
    deadwoodman
    deadwoodman 2019/03/10
    “「〇〇好きに悪人はいない」という言葉そのものに罠がある。〇〇と善悪は関係がなく、ただ人の闇に善悪があるだけなのだから。”
  • 『会計が動かす世界の歴史』はスゴ本

    シャーロック・ホームズの金銭感覚や、ダーウィンの資産活用から、会計と革命の意外すぎる関係、複式簿記から解き明かす知性の進化など、歴史を縦横に行き交い、ミクロからマクロ経済まで自在にピントを合わせながら、人類の歴史を損得の視点から紐解く。 パッケージから、最初は「簿記の歴史」や「会計の世界史」という印象を持った。だが、書の焦点深度はもっと広い。そして、めちゃめちゃ面白い。これは、お金と人との関わり合いをドラマティックに描くだけでなく、それを通じて「お金とは何か」ひいては「価値とは何か」についても答えようとしているからだ。 「お金」が人を作った? 誤解を恐れずに言うと、「お金」が人を作ったといえる。 逆じゃね? と思うだろう。壱万円札を作ったのは人だし、その紙に「壱万円分の価値がある」(ここ重要)と信じているのは人だから。なぜ壱万円に壱萬円分の価値があるかというと、壱萬円の価値があるとみんな

    『会計が動かす世界の歴史』はスゴ本
  • 『会計が動かす世界の歴史』はスゴ本

    シャーロック・ホームズの金銭感覚や、ダーウィンの資産活用から、会計と革命の意外すぎる関係、複式簿記から解き明かす知性の進化など、歴史を縦横に行き交い、ミクロからマクロ経済まで自在にピントを合わせながら、人類の歴史を損得の視点から紐解く。 パッケージから、最初は「簿記の歴史」や「会計の世界史」という印象を持った。だが、書の焦点深度はもっと広い。そして、めちゃめちゃ面白い。これは、お金と人との関わり合いをドラマティックに描くだけでなく、それを通じて「お金とは何か」ひいては「価値とは何か」についても答えようとしているからだ。 「お金」が人を作った? 誤解を恐れずに言うと、「お金」が人を作ったといえる。 逆じゃね? と思うだろう。壱万円札を作ったのは人だし、その紙に「壱万円分の価値がある」(ここ重要)と信じているのは人だから。なぜ壱万円に壱萬円分の価値があるかというと、壱萬円の価値があるとみんな

    『会計が動かす世界の歴史』はスゴ本
  • 知的冒険の書『ウンベルト・エーコの世界文明講義』

    知の巨人ウンベルト・エーコの、十余年にわたる講義録。 美と醜、虚構と陰謀、絶対と相対など、抽象的なテーマを俎上にのせ、フルカラーの図版を通して、具体的に迫ってゆく。ニュースやメディアで馴染んだネタから、ネットを駆使して追いかける必要のある美術作品まで、知的に振り回されるのが楽しい。 たっぷり知的興奮を味わったあと、見知ったはずの世界にある、見知らぬ裂け目に気づいたり、まるで異なる時代なのに、そこを貫く原理原則があったことを発見する。世界はもっとつながり合っているし、時代はもっと重なり合っている。人の営みは、かくも美しく、かくも醜いことを、あらためて知って驚く。 美とは何か たとえば、「美」について。 「美とは何か?」と概念で問われると、答えに窮する。イデアのように「美しさ」そのものを指し示されたとしても、それが(他の言葉でいう)何であるかなんて、分かるはずもない。せいぜい、わたしが美しいと

    知的冒険の書『ウンベルト・エーコの世界文明講義』
  • 『タコの心身問題』『イカの心を探る』『ふらんけんフラン』で頭足類の「心」を考える

    ヒト以外の存在について、「賢い」という言葉を使う際は注意したい。なぜなら、そこに擬人化の罠が潜んでいるから。「賢い」とは何か、「知性」とはどんな意味かを吟味したうえで使う必要がある。 擬人化の罠 「擬人化の罠」とは、動物を観察する際、人に似た属性の有無を探し、人の基準で行動を評価すること。たとえ人に似た行動をしても、その行動を生んだ根源的なメカニズムまでが人と同じとは限らない。なぜなら、それぞれ異なる身体と神経系をもち、それぞれ異なる生息環境で生きているため、同じ行動原理であると考えるほうに無理がある。 擬人化に偏って仮説を構築しようとすると、検証できる範囲が限定されてしまう。実験で上手に芸ができるから、「賢い」とする研究は、その動物と人との距離において、知的か否かを測ろうとする考えが裏側にある(あらゆる動物の最上位に人を据えた宗教の影響やね)。したがって、動物の「知性」とは、その動物にと

    『タコの心身問題』『イカの心を探る』『ふらんけんフラン』で頭足類の「心」を考える
  • 『はざまの哲学』はスゴ本

    「哲学は何の役に立つのですか?」 哲学をやっていて良いのは、メタ的に疑う目を養えることだ。 たとえば、「哲学は何の役に立つのですか?」という質問が、どんな前提で発せられており、その前提が孕む別の問題に気づけるようになる。 質問者は、「哲学は〇〇の役に立ちます」という回答を期待している。〇〇には、適当な言葉が入る。たとえば、「論理的思考」や「詭弁術」、あるいは「認知バイアスの明確化」「会議における論駁」など、いくらでもある。そこから質問者は、〇〇を身につけるには、別に哲学である必要はない、と言うことも可能だ。 まさにここが問題になる。 「哲学が〇〇の役に立つ(a)」からといって、「〇〇のために(b)哲学がある」わけではない。この(a)と(b)を混同させる発想が、質問の前提にあるのだ。いま哲学を槍玉に挙げたが、哲学に限らず、歴史数学、文学など、学問分野は質問者の意図によって入れ替え可能である

    『はざまの哲学』はスゴ本
    deadwoodman
    deadwoodman 2019/01/07
    “科学者に研究開発プロジェクトを請け負わせる形で財政援助を行うのだが、これは、戦時の科学者動員を平時化するものであり、同時に莫大な予算を必要とする「ビッグ・サイエンス」の始まりでもあった”
  • 「ネタバレの美学」が最高に面白い: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    ワークショップ「ネタバレの美学」が最高に面白かったので書く。ちなみに、togetterまとめは[ワークショップ「ネタバレの美学」2018年11月23日]にある。 「脚・虚淵玄」でも観るか? だからこそ観るのか? いま読んでる推理小説の犯人、未見の映画のラストなど、楽しみにしている作品の肝心のところをバラされたら、どう感じるだろうか? 気にしない人もいるけれど、ほとんどの人は腹を立て、バラした人に抗議するかもしれぬ。あるいは、誰かのつぶやきが目に入り、うっかりオチを知ってしまったら? いま読んでるを落としてしまい、たまたま開いたページで犯人を知ってしまったら? もっと言うと、明らかにネタバレ(に見える)展開を、当の公式サイトで明かしているならば? 監督がノーランとか、脚が虚淵と分かった時点で、「見えて」しまうから、一切の予備知識ゼロで作品に向かうことが「正しい」鑑賞なのか? でも完全に

    「ネタバレの美学」が最高に面白い: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
  • 『神は数学者か』はスゴ本

    九九の9の段を眺めていて、ささやかな「発見」をしたことがある。一の位と十の位の数を足すと9になる。九九に限らず、9の倍数の各桁の数の合計は、必ず9になるのだ。 9,18,27,36,45,54,63,72,81,90,99,108,…… 気づいたときには驚いたが、何のことはない。 「9の倍数」とは、「9を加えた数」のこと。そして「9を加える」ことは、「10を加えて1を引く」、つまり「上の桁の数に1を加え、元の桁の数から1を引く」操作にほかならない。元の数が9から始まるから、「上の桁の数に1を加え、元の桁の数から1を引く」操作を繰り返しても各桁の合計は「9+1-1」になる。これは、9という数が、桁上がりする一つ手前の数という性質を持つから。2進数なら1、16進数ならF、n進数ならn-1に割り当てられた数が相当する。 一方、たまたま数え方が10進数だから、9の性質がそうなっているとも言える。な

    『神は数学者か』はスゴ本
  • 東大・京大で『勉強の哲学』が一番売れている理由「勉強するとキモくなる」

    「勉強とは何か?」を根源的に考えた一冊。一言なら「勉強とは変身である」になる。 巷に数多のノウハウではない。意識高い系の自尊心をくすぐるではない。勉強するとはどういうことか、勉強することで何が起きるのかを、言語と欲望の問題にまで踏み込み、掘り下げる。 議論のバックグラウンドに、フーコーの権力システム、ドゥルーズ&ガタリの脱コード化、さらにウィトゲンシュタインの言語観をも引き込んでいるが、咀嚼しきった上で原理的に考え抜く、その知的格闘が面白い。 勉強すると何が起きるのかを考える際、勉強する「前」はどうなっているかに着目する。自分が話す(=考える)言葉やコードは、そのときに自分がいる環境に依存しているという。半径5mの仲間や学校、家族、手元の端末のSNS、マスコミ、社会などから、「こうするもんだ」というコードにノッて話し、考え、行動する保守的な状態だという。 それが、勉強することにより、慣

    東大・京大で『勉強の哲学』が一番売れている理由「勉強するとキモくなる」
  • ニック・レーン『生命、エネルギー、進化』は難しかった

    書は、「生きているとはどういうことか?」をエネルギーの観点から解き明かした、大変興味深い生命科学のなのだが、わたしにはかなり難しかった(3回読んだ)。高校~大学レベルの生物学の知識に加え、化学平衡や高分子化合物について理解していることを前提とする。 著者は、自らの思考実験について丁寧に説明してくれるものの、そのプロセスに一切の手抜きはない。よくある途中を飛ばして、「要するに」とまとめたりしない。その説明がまだるっこしく、想像ではなく知識を要するため、書の難度を上げている。前著『生命の跳躍』より数段ハードな読書となった。ビル・ゲイツをはじめ、書を絶賛している人を尊敬する。 書のキモは次の通り。 生命は電動である電動の単位はATP(アデノシン三リン酸)で示されるATPはエネルギーの貯蔵・供給・運搬を仲介する分子であるATPは膜を挟んだ電位差で生じる(プロトン駆動力と呼ぶ)膜を貫きAT

    ニック・レーン『生命、エネルギー、進化』は難しかった
  • 知の巨人たちが取り組んでいる問題はこれだ『いま世界の哲学者が考えていること』

    やり方が分かっているものは、哲学に向いていない。森羅万象の問題のうち、やり方どころか、そもそも「問題」とすら認識されていないところから始まるのが哲学である。もしくは、問題の背景や根領域からメタに捉え直し、やり方そのものを生み出すのが哲学である。 だから、哲学に取り組むことで、視野は拡張され、思考ツールが集まり、なによりも「問題」そのものを疑う目が養われる。 たとえば、与件を「物理学の問題」や「経済学の問題」に落とすならば、物理学や経済学の「やり方」で考えるしかない。それは一定の成果を生む一方、それぞれの「学」の前提から離れることはできない。 しかし、哲学なら、それぞれの学問領域の成果に加え、「問題」そのものを疑い、再定義することで、さらに深く・広く考えることができる。「〇〇とは何か」をその学問領域に囚われずに追求し、「〇〇からもたらされるものは、結局なんなのか」を新しい目で評価することが

    知の巨人たちが取り組んでいる問題はこれだ『いま世界の哲学者が考えていること』
  • 1