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ブックマーク / realsound.jp (45)

  • 追悼・福田和也「保守革命主義者のとんかつとアジビラ、その享楽」 ーー絓秀実・寄稿

    福田和也『遥かなる日ルネサンス』(文藝春秋) とんかつを福田和也と一緒にべたことがある。今となっては定かには思い出せないが、福田がまだSFC(慶応大学環境情況学部)の助教授に就任する以前、慶応大学文学部(三田)の非常勤講師をしていた頃だから、1990年代初めのことである。 私は1991年秋には福田と多少の面識を得ていた。1990年に滞在していた米国の大学図書館で、日の言論状況を知るべく偶々読んだ雑誌に掲載されていた福田の『遥かなる日ルネッサンス』の一部に接し、若いらしいが聡明な「保守」の登場が、記憶に刻まれていた。 1991年の帰国後、これまた偶々、ある酒場で遭遇して互いに自己紹介したのが最初である。ただ、それ以前から「福田」という名前は知らずとも、コラボラトゥールをやっている面白い研究者が、国書刊行会の周辺にいるらしいことは、蓮實重彦から漏れ聞いていた。 『奇妙な廃墟』(1990

    追悼・福田和也「保守革命主義者のとんかつとアジビラ、その享楽」 ーー絓秀実・寄稿
  • 東大・京大、Sラン私大や医学部出身者まで……作風からは意外? 高学歴すぎる漫画家たち

    漫画界の巨匠・手塚治虫は大阪帝国大学附属医学専門部在学中にデビューし、のちに奈良県立医科大学で医学博士号も取得している。そうした経験が、『ブラック・ジャック』や『陽だまりの樹』などの医学を題材にした漫画に繋がっているのは間違いないだろう。手塚のほかにも、漫画界にはアッと驚く高学歴漫画家がたくさんいる。 【写真】高学歴漫画家たちが手がけた作品 日の最高学府の東京大学は、出版社や漫画の編集者には何人も人材を輩出しているが、漫画家は決して多くはない。それでも、『伊賀野カバ丸』の亜月裕、『はぐれアイドル地獄変』の高遠るいなどが卒業生として知られる。また、異色の存在では『姫乃ちゃんに恋はまだ早い』のゆずチリは、東京大学卒業生による東京大学をテーマにした漫画を描いた稀有な存在である(『漫画学科のない大学』)。 東京大学の漫画関係者としては、『美味しんぼ』原作者の雁屋哲がもっとも著名ではないだろう

    東大・京大、Sラン私大や医学部出身者まで……作風からは意外? 高学歴すぎる漫画家たち
    fromAmbertoZen
    fromAmbertoZen 2023/01/13
    単に学歴高いでいうなら、『栄光なき天才たち』原作伊藤智義(千葉大教授)は、東大の博士号、なんて例もあるが、大学漫研では早大と並ぶ明大はなぜ言及なし?(かわぐちかいじ、ほんまりう、いしかわじゅん...)
  • 『NOPE/ノープ』に込められたテーマを徹底考察 逆転した“見られる者”と“見る者”の関係性

    映画のはじまりは、フランスのリュミエール兄弟による「シネマトグラフ」の発明からだということは、映画好きの間ではよく知られている。そして“発明王”トーマス・エジソンが、さらにその前身となる「キネトスコープ」を、それ以前に開発していたことも同様だ。さらにまた、エジソンの発明のきっかけを遡れば、エドワード・マイブリッジという人物による有名な連続写真『動く馬』の撮影に行き着く。 ジョーダン・ピール監督の『NOPE/ノープ』は、その『動く馬』に目をつけ、“映画の撮影”そのものを題材にしたホラー映画である。ピール監督の作品は、これまで社会問題を題材とした難解かつ衝撃的な内容によって、絶賛されたり物議を醸してきたが、作では空に浮かぶ“何か”を映し出す大迫力の映像によって、これまでよりも強いエンターテインメント性が話題となっている。 しかし作は、むしろこれまでのジョーダン・ピール作品よりも、さらに過激

    『NOPE/ノープ』に込められたテーマを徹底考察 逆転した“見られる者”と“見る者”の関係性
  • 宮台真司の『ニトラム』評:無差別殺戮事件の背景を神話的に描き出した稀有な作品

    世界中を震撼させた無差別殺戮事件の背景を神話的に描き出した稀有な作品 〜ジャスティン・カーゼル監督『ニトラム/ NITRAM』~ 【この種の作品の製作と批評の難しさ】 こうした作品を製作するのは難しい。凶悪な犯人に寄り添う作品は、人々に彼を理解する ことを求める。だが理解を表明すれば、凶悪犯を擁護しているとして炎上しかねない。加えて、自分も同じような境遇だと感じる人々が似た犯罪に動機づけられる可能性さえある。 同じ理由で、こうした作品を批評するのも難しい。上記の理由に加えて、作品のシニフィエである社会について論じることを要求されることも、批評する側の重荷になる。作品内の物語や映像構成や視座や世界観を論じるだけでは、逃げたと見做されてしまうのである。 それでも、こうした作品は作られる必要があり、批評される必要がある。似たような無差別殺戮が繰り返される背景にある僕らの社会が抱えている問題を、映

    宮台真司の『ニトラム』評:無差別殺戮事件の背景を神話的に描き出した稀有な作品
  • YOASOBIキービジュアルで話題! イラストレーター古塔つみが語る、“わかりやすさ”へのアンチテーゼ

    「わかりやすさ」へのアンチテーゼ ——古塔さんは年齢、性別、顔を公表しておらず、どんな人なのかほとんどわからない状態になっています。情報を開示しないのはなぜですか? アートを巡る日の環境も理由の一つですね。最近、アート界にも学歴があることに気付いて。「芸大卒、女性、モデル」がいちばん強くて、フランスで活動したことがあれば最強スペック。そんなことに左右されるのはイヤだし、情報をオープンにすることで、恣意的に見られるのも良くないなと。純粋に絵を見てもらうためには、余計な情報はないほうがいいと思うんです。 ——古塔さんは「女の子しか描かない」と公言していますが、その絵柄は驚くほど幅広い。一人のイラストレーターが描いたとは思えないほど多様ですが、いろいろなタッチの絵を描くことも、当初から目指してたんでしょうか? そうですね。単純に飽き性ですし、いろいろな女性の表情を描きたいんですよね。女の子のイ

    YOASOBIキービジュアルで話題! イラストレーター古塔つみが語る、“わかりやすさ”へのアンチテーゼ
    fromAmbertoZen
    fromAmbertoZen 2022/02/11
    「古塔さんは『女の子しか描かない』と公言していますが、その絵柄は驚くほど幅広い。一人のイラストレーターが描いたとは思えないほど多様ですが、...」
  • 映画評論家・小野寺系がまさかの漫画家デビュー 『小野寺系の“逆襲”』01:異世界で俺は

    リアルサウンド映画部でおなじみの映画評論家・小野寺系が、まさかの漫画家デビュー! 『小野寺系の“逆襲”』と題して、書き下ろし新連載を開始する。記念すべき第1話では今、ライトノベルやアニメで大人気のシチュエーションである“異世界転生モノ”にチャレンジ。クラスメートの女子とファンタジーな冒険世界へと旅立った主人公の運命やいかに!?(編集部) 異世界で俺は(続きを読むには画像をクリック) 漫画の続きはこちらから ■小野寺系(k.onodera) 映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。作『小野寺系の“逆襲”』で漫画家デビュー。Twitter映画批評サイト

    映画評論家・小野寺系がまさかの漫画家デビュー 『小野寺系の“逆襲”』01:異世界で俺は
  • 青春ドラマの傑作『六番目の小夜子』が深夜に蘇る 山田孝之、栗山千明の中学生役にも注目

    7月31日から8月2日にかけて、NHK総合の深夜帯で連続ドラマ『六番目の小夜子』が再放送される。 2000年にNHK教育の「ドラマ愛の詩」で放送された『六番目の小夜子』は、「青春ドラマの傑作」と語り継がれているドラマだ。 物語は、とある中学で語り継がれる不思議な言い伝え「サヨコ伝説」が軸となっている。3年に一度、「サヨコ」と呼ばれる役割に、ある生徒が選ばれる。「サヨコ」に選ばれた生徒は3つの役割を果たすことが求められ、それが成功すれば、大いなる扉が開かれると噂されている。主人公の潮田玲(鈴木杏)は次のサヨコに選ばれたいと考えていたが、そこに津村沙世子(栗山千明)という女子生徒が転校してくる。果たして彼女がサヨコなのか? 「サヨコ伝説」をめぐって校内はざわつき始める。 原作は『夜のピクニック』(新潮社)や『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)などの小説で知られる恩田陸の作家デビュー作。新潮社が主催する第3

    青春ドラマの傑作『六番目の小夜子』が深夜に蘇る 山田孝之、栗山千明の中学生役にも注目
  • 異色のアニメーション映画 『映画大好きポンポさん』はなぜ多くの観客の共感を集めるのか

    イラスト漫画投稿サイト「pixiv」で人気を得て出版もされた、映画への愛情をぶつけた同名漫画のアニメーション映画化作品『映画大好きポンポさん』が、一部で話題を呼んでいる。 作が特徴的なのは、一般に「アニメ絵」と呼ばれる、日のアニメーション作品特有の絵柄で、実写映画の製作を描いているという点だ。作はそんな、普段はあまり交わることのないジャンル同士の垣根を越えて、両方に足をかける珍しい存在になっているのだ。 『映画大好きポンポさん』がアニメーション映画として異色作だと感じる理由は明らかだ。漫画作品は作家自身のスキルに大きく左右される。原作者・杉谷庄吾自身の絵柄が、もともと日のアニメに強く影響された画風であり、同時に実写映画に興味を持ったパーソナリティであるならば、原作漫画のような作品が出来上がることは、何も不思議ではない。しかし、アニメーション映画ともなれば、莫大な製作費と大勢のスタ

    異色のアニメーション映画 『映画大好きポンポさん』はなぜ多くの観客の共感を集めるのか
  • 『クルエラ』が内容的な成功を収めることになった理由 掲げられた新しいメッセージとは

    『101匹わんちゃん』(1961年)のクルエラ・ド・ヴィルといえば、ディズニーのアニメーションの歴史の中でも、屈指のインパクトと残虐性を持ったキャラクターとして知られる。ファッション界の大物として、周囲の人間をゴミのように扱い、汚い言葉を撒き散らす。何より、多くの人々が犬を愛するイギリスで、大勢のダルメシアンを盗み出し、毛皮にしてしまおうというのだから、名前や風貌と相まって、まさに悪魔(デビル)としか言いようがない。 近年、自社のクラシックアニメーション作品を、予算をかけた超大作として実写映画化する企画が目白押しのディズニーで、今回実写化された『クルエラ』は、『101匹わんちゃん』のヴィラン(悪役)を主人公に、彼女の若かりし時代を描くスピンオフ作品だ。その鮮烈で質の高い出来には驚きの声があがっている。ここでは、そんな作が内容的な成功を収めることになった理由と、掲げられた新しいメッセージに

    『クルエラ』が内容的な成功を収めることになった理由 掲げられた新しいメッセージとは
  • 宇宙規模のスケールで問う移民問題と人間の価値 SF映画『密航者』は“現在”を映し出す

    人類の未来や、現実の出来事を超越した物事を描く、SF小説SF映画。だが、その内容をよく味わってみると、そこには、私たちを取り囲む社会状況が反映されていて、むしろ“現在”や“現実”の事象を考えさせるような要素が多数存在していることが多い。Netflixの配信映画『密航者』は、その意味において、まさに現在を映し出すために作られたSF作品といえよう。 作に登場するのは、3人の宇宙飛行士。宇宙での経験豊富な船長バーネット(トニ・コレット)を中心に、大勢の希望者の中から選び抜かれた、極めて優秀な2名、医師のゾーイ(アナ・ケンドリック)と研究者のデヴィッド(ダニエル・デイ・キム)である。3人は、火星で様々な研究を行うという、人類にとって重要なミッションを与えられ、火星への2年もの旅に出発する。 打ち上げ後しばらくの間、ミッションは順調かに見えたが、突然、予想外の事態が発生する。なんと船内に人間がも

    宇宙規模のスケールで問う移民問題と人間の価値 SF映画『密航者』は“現在”を映し出す
  • 山崎まどかの『一度きりの大泉の話』評:萩尾望都が竹宮惠子に向けていた眼差しとその痛み

    『トーマの心臓』(小学館文庫版) 萩尾望都と竹宮惠子、二人の作品は確かに一時期、似たような題材を扱っていたかもしれない。少年同士の関係もそのひとつだ。それぞれのを読むと「少年愛」や今のBLに対する思いは違うが、女性の表現者に、もっと言うと女性そのものに押しつけられた物語からの脱却を、二人が少年同士のつながりに求めていたのがよく分かる。 しかし人たちやファンが気にするほど、『トーマの心臓』『小鳥の巣』と『風と木の詩』は当に似ているだろうか? かつては私もそう思っていたかもしれない。中学生の頃は、『風と木の詩』は『トーマの心臓』を扇情的に、コマーシャルに作り替えたものだと信じていた。そう思われることこそが、竹宮惠子が恐れていたことだったのだろう。業界やファンの間では逆の噂があったのだと、萩尾望都の方は語っている。 『風と木の詩』( Kindle版) 今の自分の目で見ると、それぞれの作品は

    山崎まどかの『一度きりの大泉の話』評:萩尾望都が竹宮惠子に向けていた眼差しとその痛み
  • 光永惇監督が語る、ラッパー・小林勝行のドキュメンタリー『寛解の連続』 「祈りがラップになる」

    1991年生まれの光永惇監督の処女作『寛解の連続』の自主上映が展開中だ。作は、兵庫県神戸市出身のラッパー、小林勝行に光永監督が密着した「記憶の記録」である。小林勝行のセカンド・アルバム『かっつん』のメイキング・ドキュメンタリーの制作として出発するものの、完成した作品はいわゆる“ラッパーのリアルな日常”を捉えたヒップホップ・ムービーとは毛色が異なる。躁うつ病、障がい者介護、信仰する宗教ーーそんな小林勝行のリアルに肉迫した光永監督は、そこで何を感じ、どのように映画を作り上げていったのか。光永監督に話を聞いた。 「小林勝行の土着性みたいなものに惹かれたんです」 光永惇監督 ーーラッパーの小林勝行のドキュメンタリーを撮ろうと思ったきっかけは何だったんですか? 光永惇(以下、光永):大学在学中から、ピンク映画の下っ端をしていたんですけど、その現場がすごく大変だったんです。その状況を変えるためにも「

    光永惇監督が語る、ラッパー・小林勝行のドキュメンタリー『寛解の連続』 「祈りがラップになる」
  • 金子修介監督×かとうみゆき、ロマンポルノへの思いを語る 『ラスト・キャバレー』初DVD化

    1971年に製作を開始した日活ロマンポルノ。2016年に生誕45周年を迎え、昨年は行定勲、園子温らが監督を務めたロマンポルノが公開されるなど、再注目を集めている。日映画史に名を残す映画監督・脚家・スタッフたちを排出したロマンポルノは、現在も国内外で高く評価され、特集上映も後を絶たない。年度も「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」の一環として、今回が初HD・DVD化となる『ラスト・キャバレー』を含む、14タイトルがDVDリリースされた。 6月2日にDVDが発売された『ラスト・キャバレー』には、メガホンを取った金子修介監督と、主演のかとうみゆきによるオーディオコメンタリーが収録されている。 『ラスト・キャバレー』は、閉店する昔ながらの“ピンクキャバレー”にロマンポルノの終焉をなぞらえた“さよなら”ムービー。 コメンタリー収録の際に行われたツーショットインタビューでは、1988年の公開か

    金子修介監督×かとうみゆき、ロマンポルノへの思いを語る 『ラスト・キャバレー』初DVD化
  • 『リチャード・ジュエル』が誘う終わりのない問い イーストウッドの“悪意”を受け考えるべきこと

    私たち現代観客は『リチャード・ジュエル』というアメリカ映画をどのように見たらよいのだろうか。一見シンプルなテーマを持ち、ひょっとすると類いまれな感動と落涙にすらいざなわれてしまいもするこの映画に、人はするどく不審な点を嗅ぎつけ、堂々巡りの問いへと誘い込まれていく。身近な言い方を使うなら「ツッコミドコロ満載」の映画だということになる。感動的な良いハナシではあるが、ちょっと変だぞ。疑いが頭をもたげ、この疑いについての堂々巡りが始まる。 クリント・イーストウッドの映画を見るとは、この疑いの堂々巡りに巻き込まれ、それに耐える体験のことだろう。ところが、ここ日ではイーストウッド映画は無抵抗に支持されすぎた感がある。参考として『キネマ旬報』の年間ベストテンを例に取ると、1993年に『許されざる者』が1位を獲得したのを契機として、軒並みベストテンの上位を飾り、日で最も人気のある映画監督のひとりとなっ

    『リチャード・ジュエル』が誘う終わりのない問い イーストウッドの“悪意”を受け考えるべきこと
  • 高橋ヨシキが著した、新しいスター・ウォーズ評 『ファントム・メナス』の映画的功績とは?

    「愛憎」。それこそ、ジェダイの教えにおける最大の禁忌だ。しかし、スター・ウォーズを語るとき、誰しも自らの愛憎を抑制するのは困難極まりない。好きなドロイドやデザインについて、あるいは期待に反した新作映画に対して。誰しもの血肉となっているこの映画を、愛憎抜きにただ冷静な視線からのみ語ることはできるのだろうか。 かつて別れを告げたはずのスター・ウォーズ 『スター・ウォーズ 禁断の真実』を上梓した高橋ヨシキは、雑誌『映画秘宝』でライター/アート・ディレクターとして参加する傍ら、NHKラジオ『すっぴん』や、ライムスター宇多丸がMCを務める『アフター6ジャンクション』(TBSラジオ)にも出演するライターだ(著書に『暗黒ディズニー入門』があり、そのは評者である私が編集を務めたものだと、ステマだと指摘されないようにここで念のため断っておきます)。『アフター6ジャンクション』の前身番組『ウィークエンド・シ

    高橋ヨシキが著した、新しいスター・ウォーズ評 『ファントム・メナス』の映画的功績とは?
  • 『万引き家族』は“誘拐”をどう描いたか? 弁護士が法的観点から読む

    是枝裕和監督の『万引き家族』の主要登場人物は、タイトルどおり、窃盗や年金詐取などの犯罪を日常的に働く人たちだ。筆者の業は弁護士だが、彼らの行動を現実の法規範に照らして裁いてみることが、芸術に対する批評として決定的な意味があるとは思わない。ただ、映画の中で、彼らに対して適用されるルールが、現実の法規範とは相当異なっている点が無視されてよいとも思わない。以下詳しく論じてみたい。 是枝監督からの影響をショーン・ベイカー監督自身が公言している映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は、貧困層が住み着いたモーテルを舞台にしたリアリティに根差した描写から一転、ラストは登場人物の空想ともとれるようなマジカルな展開に飛躍していく。 同じく貧困層を扱った『万引き家族』を観ていて、終盤、率直なところ、筆者はこの映画も『フロリダ・プロジェクト』と同じ構造の作品なのかと思い違いをしてしまった。リリー・フランキ

    『万引き家族』は“誘拐”をどう描いたか? 弁護士が法的観点から読む
  • 『君の名は。』エグゼクティブプロデューサーが語る、大ヒットの要因と東宝好調の秘訣

    全国映画週末興行ランキングで7週連続1位を記録し(興行通信社調べ)、観客動員は1000万人超え、10月10日までで興行収入145億6000万円を超える大ヒットになった『君の名は。』。社会現象と化した『君の名は。』の大ヒットについては、さまざまなメディアでも分析が行われている。今回リアルサウンド映画部では、大ヒットの要因をさらに深掘りすべく、作のキーマンのひとり、38歳にしてエグゼクティブプロデューサーを務めた古澤佳寛氏にインタビュー。東宝がオリジナルのアニメで勝負をしようとした製作背景から、大ヒットに繋がることになった要因、そして新海誠に続く未来を担う若き才能についてまで、じっくりと語ってもらった。 「当初の興行収入目標は20億だった」 ーーそもそも『君の名は。』はどのような形で製作が始まったのでしょうか? 古澤佳寛(以下、古澤):私は所属している映像事業部においては、コンテンツの権利獲

    『君の名は。』エグゼクティブプロデューサーが語る、大ヒットの要因と東宝好調の秘訣
  • 邦画“日本語字幕つき上映”のメリットと課題ーー『シン・ゴジラ』『君の名は。』の実績から考える

    東京は立川にある独立系シネコン、【極上爆音上映】で知られる“シネマシティ”の企画担当遠山がシネコンの仕事を紹介したり、映画館の未来を提案するこのコラム、第8回は“邦画日語字幕版上映”について。 いまだなにかと話題が尽きることのない『シン・ゴジラ』ですが、少し前に話題になった“日語字幕つき上映”が大変好評でしたので、僕の働く立川シネマシティでは2016年9月24日(土)~30日(金)の1週間、アンコール上映を行うことを決定しました。1日3回上映があるうち、2回を日語字幕つきにします。劇場サイズもケチなことはいわず、382席と302席の最大級の劇場で上映します。 「日映画で日語を話しているのに日語の字幕つき?」と疑問に思われた方もいらっしゃるでしょう。これは主に聴覚に障がいを持つ方のための上映なのです。“バリアフリー上映”と呼称されることもあります。そのため、ただ台詞を文字でなぞる

    邦画“日本語字幕つき上映”のメリットと課題ーー『シン・ゴジラ』『君の名は。』の実績から考える
  • 『シン・ゴジラ』は“コントロールルーム映画”だった? 速水健朗が庵野監督の意図を読み解く

    皆『シン・ゴジラ』について語りすぎである。こちらが語ることがなくなるのでやめて欲しい。危機管理にまつわる行政組織論、右から左からの日人論、震災、原発事故との関連した議論などはもちろん、鉄道に関する知識、上陸経路に関する考察、建築物からの視点などおもしろい議論がネットからいち早く出そろった感があり、うかうか後出しじゃんけんなんてできやしない。とはいえ、それでもまだ語り尽されてないのが『シン・ゴジラ』なのである。ここでは、僕が好きな作の細部の話をしよう。論は、“中央制御室映画”としての『シン・ゴジラ』である。 告白するとセンターコントロールルームが出てくる映画が好きだ。中央制御室、またはオペレーションルーム。呼び方は、何でもいいが、情報を一元化して集積し分析官、オペレーターたちが見守る空間が登場する映画というジャンル分けが可能である。ちなみにコントロールルーム映画の代表に『アポロ13』が

    『シン・ゴジラ』は“コントロールルーム映画”だった? 速水健朗が庵野監督の意図を読み解く
  • 『ヘイトフル・エイト』は何を告発するのか? タランティーノ最高傑作が描くアメリカの闇

    「恐らく、これは俺の最高傑作と言えるだろう」 南北戦争終結後のアメリカ、冬の山岳地帯の山小屋を舞台にした密室殺人ミステリー西部劇『ヘイトフル・エイト』 についての、タランティーノ監督自身の発言である。この変則的とも思われる題材の作品が、なぜ彼の「最高傑作」と言えるのだろうか。 クエンティン・タランティーノは弱冠31歳にして撮った『パルプ・フィクション』で、カンヌ映画祭最高賞(パルム・ドール)を獲得し、「映画界の寵児」と呼ばれた、紛れもない天才監督である。いわゆるB級映画を中心とした、自分の愛する映画作品の引用を駆使し、時系列を組み換えながら構成する『パルプ・フィクション』が、まずフランスで大きく評価されたというのは必然的かもしれない。既製品を利用し、全く別の意味に昇華させてしまう芸術分野の手法を、最も的確に映画作品で成功させ、タランティーノ自身もファンだというジャン=リュック・ゴダール監督

    『ヘイトフル・エイト』は何を告発するのか? タランティーノ最高傑作が描くアメリカの闇