【読売新聞】最新の近世史研究を反映したシリーズ『日本近世史を見通す』(全7巻)の刊行を、吉川弘文館が始めた。広く国際関係の中で日本近世を捉え直し、多彩に発展した江戸時代の文化にも目を配る。 同社は10年ほど前に『日本近世の歴史』シリ
【読売新聞】POINT ■ドイツは1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故を契機に、脱原子力を選択した。一時期は原子力の運転期間を延長したが、福島の事故を受けて運転延長政策を撤回し、2022年までにすべての原子力発
敵への威嚇行動、起源? 人間は騒がしい生き物だ。チンパンジーであれば、じゃれあって遊ぶときでさえ、大声で笑ったり互いに呼び合ったりはしない。鳥などのように樹上を自在に逃げ回ることができない限り、音を立てることは、肉食獣にわざわざ自分の居場所を知らせる自殺行為に等しい。「沈黙は金」の地上で、人間だけが例外的に、進化の昔から音を出し続けてきたのである。 いったいなぜ人間はそんな危険を冒すようになったのか? 著者は、人間が文節言語を獲得する以前、つまり声で歌っていた頃にまで遡ってその答えを探す。音楽の起源と進化をめぐる、超人類史的かつ全地球規模の探求の始まりだ。 著者は、歌はポリフォニー(多声音楽)から始まった、と主張する。モノフォニー(単旋律音楽)が組み合わさってポリフォニーになったと考えがちだが、歴史的な事例を辿(たど)ると各地でポリフォニー文化の消滅が起こっているからだ。 ではそのポリフォ
イメージと戦後処理から 謎めいた指導者像に迫る 中華人民共和国建国の功労者、毛沢東。文化大革命で神格化され、中国共産党が多くの一次史料を独占的に管理しているため、その人物像についてはいまだに不明な点が多い。このような中で、果敢に実像に迫る著作が相次いで出版された。 一冊目は、毛沢東の初期イメージを解明した石川禎浩氏の研究書。1920~30年代の中国共産党は、国民党政権から弾圧されていた時期が長く、指導者たちの人物像は謎のベールに包まれていた。そのため、各国の政府、ジャーナリストやコミンテルンは、その実態を必死に探っていた。本書は、毛沢東に関する情報が誰に、どのようにして把握、報道され、彼のイメージがどのように形成されていったのかを、多数の写真とともに検討している。大変読みやすく、中国共産党史の入門書としても好適である。 毛沢東への直接取材に基づいて刊行され、世界的なベストセラーとなったルポ
風土も歴史も危機に 私たちは日常的に使う言葉が消えてしまう事態など考えもしない。しかし二〇〇九年、ユネスコは世界の約六五〇〇の言語の内、消滅の危機にある二五〇〇の言語リストを発表し、救済と保護を訴えている。 著者は本書でユネスコの支援により、消滅の危機にある言語の中で特徴的な言語三十を世界各地から選び、解説する。私たちが何より驚くのはアイヌ語についての記述だろう。 話者数が既に十五人で消滅危険度が極めて高いとしている。アイヌ語を 流暢 ( りゅうちょう ) に話す者は八十歳を越え、日常ではほとんど使わない。理由は一八九九年の旧土人保護法で差別を広げ、母語を話す権利を否定されたからだ。現在、アイヌは先住民と認められ、アイヌ語再生の動きはあるが、アイヌ自体が 却 ( かえ ) って自分の否定的評価を怖れ、アイヌ文化の保護運動に参加しないと著者は記している。 この記述に異議があるかもしれないが、
視点を転換させた旅 伊東忠太のことは気になっていた。路上観察や建築探偵の活動でも知られる建築史家・建築家の藤森照信さんから以前、「ロバに乗ったりしながら中国、インドを経て、ギリシャまで、一人で見聞して回った変な人よ」と聞いていた。藤森さんのような人が太鼓判を押すのだから相当な変人なんだろう。興味を持ったが、そのままになっていた。 伊東は、東京駅の設計で有名な辰野金吾の 愛 ( まな ) 弟子で日本最初の建築史家。20代半ばで、法隆寺が世界最古の木造建築であることを検証。さらに、中央部分がわずかにふくらんだ列柱の原型はギリシャ神殿のエンタシスにあるとする説を唱えた。その底流には、中国や日本の建築を無視していた西欧中心主義に対する明治人の反発もあったのだろう。 1902年3月、自説の証拠を求める彼は3年3か月に及ぶ留学に旅立つ。北京、西安からカルカッタに入り、04年5月、オスマン帝国に到着。現
悪のイメージ実際は? 聖徳太子が日本古代史のヒーローだとすれば、蘇我氏はその敵役。天皇を 蔑 ( ないがし ) ろにし、専横をきわめた 挙句 ( あげく ) 、645年の「大化の改新」で滅び去った悪の一族、といったイメージだろうか。 昨年12月、わずか2日違いで、新書の老舗、岩波と中公から蘇我氏についての新書が刊行された。べつに蘇我馬子や入鹿が映画やドラマの主人公になるという話があるわけでもなく、これはまったくの偶然なのだそうだが、この奇妙な一致が話題をよび、相乗効果で両書ともに売れ行き好調とのこと。そこで、この機会に両書を読み比べてみた。 まず、岩波の『蘇我氏の古代』は、蘇我氏を軸にして、「大化の改新」以前の日本古代史を過不足なく叙述している。古代史、蘇我氏の最新の研究動向をつかむには、こちらが最適。巻末の蘇我氏と藤原氏の比較論は秀逸で、天皇の外戚という地位を利用し権力確立しながらも、数
国際的な視点で説く アメリカは移民の国であると教えられてきた。また、第二次世界大戦に参戦するまで、アメリカは長らく孤立主義的だったとも教えられてきた(評者の場合は、教えてきた)。しかし、実際には、多くの移民が出身国と深いつながりを維持し、何度も出身国とアメリカの間を行き来していた。移民たちは越境的な(トランスナショナル)ネットワークを持ち、多くのアメリカ人も海外で様々な経済活動に深く関与していたのである。移民史と外交史の対話が必要である。移民たちが 逞 ( たくま ) しく暮らし、家族や親戚をアメリカに呼び寄せる(連鎖移民)様子をちりばめながら、本書は両者を結び合わせている。 移民問題は連邦政府と州、行政府と議会との権限に関わる問題でもある。また、移民問題は貿易問題とも絡み合っている。連邦政府は移民を制限しながら自由貿易を推進する困難を理解していたが、議会や州はしばしば近視眼的であった。移
難解な原著を「攻略」 19世紀は、知の革命ともいうべき時代だった。ニュートンが見つけた万有引力の法則のような、一つの理屈で万象を説明できる原理をつかみ出す営みに、人知は目覚めたのである。生物界を相手にしたダーウィンと、社会と切り結んだマルクスとが双璧だった。 そのダーウィンのバイブル『種の起原』。 斯界 ( しかい ) の良著を多数紹介し、ライターとしても定評のある訳者ですら「全体を精読した経験はなかった」というのだから余程の難攻不落とみてよい。挑戦はしたいがどうもなあ、という科学ファンには最高の「攻略本」である。 著者の細工は流々だ。生物の種は神の創造だという当時の常識を打ち破らんと身構えた『種の起原』の書きぶりには、今日の我々からするとなじみにくい点がある。そこで、原書では 渾然 ( こんぜん ) となっている二つの鍵概念「自然 淘汰 ( とうた ) 」と「種分化」とを分けて組みなおす
現代に生きる私たちは、DNAや遺伝子、ゲノムといった言葉を聞かない日はないほど。また「変革を求めるのはあの会社のDNAだ」などと使うこともよくある。 だがそもそも、4種類の塩基がつながっている物質「DNA」と、「遺伝子」という概念はイコールなのだろうか。フランスの遺伝・発生学者である著者は本書で、この基本的な問いに対し、科学史からアプローチし、また哲学的な問題として考察する。結論は〈遺伝子はDNAではない。あるいは、DNAだけではない〉と明快だ。 私が科学記者になった25年前は、DNA配列の中でたんぱく質をコードしている部分を遺伝子と呼び、それで問題はなかった。だが非コード部分の働きや、RNAの関与、たんぱく質の立体構造の重要性が解明されるにつれ、遺伝子という概念は曖昧になり、拡張されてきた。近年ではDNA配列は変化しないのに、シグナルが世代を超えて影響する現象も研究が進み、遺伝子概念に揺
なぜ開戦に至ったか 1902年に同盟を結んだ日本とイギリスは41年に開戦する。日本軍はアメリカのハワイを攻撃するよりも早く、英領マラヤに上陸し香港を占領した。太平洋戦争は、日英戦争でもあった。なぜかつての同盟国が戦争に至ったのか。本書はこの問いの解を外交関係者の評伝集に求める。日本側では重光葵と吉田茂、イギリス側ではチャーチルなど首相・外務大臣6名、駐日大使2名、駐英日本大使館に出入りした5名である。 ベスト氏は国際史とりわけ日英関係の研究に定評があり、最近は日本の雑誌にも寄稿している。練達の史家の手にかかると、登場人物の誰もが個性派ぞろいである。センピルは、飛行士教育使節団を率いて日本海軍の航空部隊の訓練を指導し、F・S・G・ピゴットは、陸軍の極東軍事情報の統括者を務めつつも日英友好を夢みて周囲から危険視された。 満州事変から日中戦争の時代に、重光や吉田など駐英大使たちは、日英協調に望み
ノアの方舟の謎解く 西欧社会には、聖書の記述が全て事実であると信じ、自然科学の領域の出来事も、ことごとくその記述に合わせて解釈する「創造論」という考え方がある。それによるとこの世界は数千年前に誕生し、地球の地形は聖書に記された大洪水によって一気に完成したことになる。つい苦笑してしまうけれど、これはその信奉者たちにとっては立派な「学説」なのだ。 この空前絶後の大洪水――近年、大スペクタクル映画にもなった「ノアの方舟(はこぶね)」の逸話は、創造論の核のひとつだ。でも、これまで地球上の各地で、実際に何度も発生している局所的な大洪水は、創造論者が唱えるようなものとは違う。ただその地域にとっては途方もない天変地異だから、記録や伝承が残されている。著者は地質学者として、地層と岩に刻み込まれている大洪水の痕跡からその原因とプロセスを読み取り、それがその地点の文明社会にどんな影響を与え、事後どのように語ら
一瞬にしてビルが崩れ、高速道路が横倒しになったあの阪神・淡路大震災から20年が過ぎた。 その後、鳥取西・中越などいくつもの大規模な地域地震が続き、2011年には東日本大震災が勃発した。 神戸大学で住宅復興の課題に取り組んできた著者は、この20年間を振り返る。震災で重傷を負った障害者のケア、コミュニティー崩壊による孤独死、民間賃貸住宅を自治体が借り上げた「公営住宅」の賃貸契約打ち切りなど、いまだ多くの問題が深刻だ。 片や東日本大震災では、神戸とは異なり、被災者に戸建て居住者が多く、狭い仮設住宅での生活に難渋しがちだという。木造仮設住宅など、被災地の風土にあった多様な住宅整備が望ましい。救命優先の災害直後では、被災者の生活の質が軽視されやすい。だが、長い復興期間でこそ、被災者の生活再建を目標にすべきだというのである。 震災で一命をとりとめたはずの人々が復興途上で不幸になるのは、何としても避けな
半端な英語化を越えて 科学の言語は英語であると言われる。実際、画期的な研究成果でも、英語以外では無視されてしまう。結果、以下のようなことが起こっている。国内の学会なのに公用語を英語にする。ほとんどの研究者はそれだけで知能が半分以下になるから大した議論ができない。日本語で思考をまとめる力のない学生に英語で博士論文を書かせる。コピペが横行する。術語の多くが日本語に訳されず、そのままカタカナ英語として流通してしまう。カタカナ英語を使いなれた研究者には、むしろ英語の発音が身につかない。ここ30年ほどこの傾向が進んできた。なぜこんな半端なことになったのか。以前は、日本語で議論する中から、立派な科学者が育っていた。 本書は、日本語で科学を学び展開できるという日本の恵まれた状況がいかに成立したのかから説き起こし、科学的概念を日本語化する努力を怠るようになった科学の現状に至る。江戸末期から明治維新に西洋の
リリース、障害情報などのサービスのお知らせ
最新の人気エントリーの配信
処理を実行中です
j次のブックマーク
k前のブックマーク
lあとで読む
eコメント一覧を開く
oページを開く