ルソーの処女作である「学問芸術論」は、彼の文明観が劇的な形で表れている作品だ。劇的という意味は、それが読者の理性というよりも、感性に訴えるということを含意している。実際一読してわかるように、この論文は、論理によって構成展開されているというより、直感によってもたらされたアイデアを、隠喩を多用して説明している、あるいは修飾しているにすぎない。 では、ルソーが直感的に感得したアイデアとは何か。それは文明の進歩は人間性の堕落をもたらすというものだった。つまり人間というものは、原始の自然な状態にあっては本来自由で、余分な知識を持つことがなかっただけ単純で幸福だった。ところが今日の文明化された人間を見よ、彼等は自由を失って束縛の中で生き、お上品さと称して堕落した生活を送っている。双方を対比して良く考えてみれば、文明の進歩が人間性の退化を意味しているのは明らかではないか、というわけである。 つまりルソー