■伊藤計劃『虐殺器官』 まずは伊藤計劃の『虐殺器官』の話から。『虐殺器官』は、近未来を舞台にした軍事SF。9,11後の社会、テロが撲滅された代わりに後進諸国において内戦や民族虐殺が繰り返される時代に、それらの虐殺の背後に常に存在しているとされている謎の米国人、ジョン・ポール。彼の暗殺を命じられた特殊部隊の兵士、クラヴィス・シェパード大尉の語りで進められるこの物語は、id:sakstyle氏が評価しているように、救いも何もない本物の地獄を見せつける、『グリーン・マイル』的なホラーを感じさせる作品である。 私がこの作品において最も心を動かされた部分は、この作品における「良心」というものの扱い方である。近未来を舞台にしたこの作品において、「良心」はその存在を科学的に証明させられるほどのレベルに至っている。たとえば以下のように。 「良心とは、要するに人間の脳にあるさまざまな価値判断のバランスのこ