《この記事は約 9 分で読めます(1分で600字計算)》 出版社を定年退職したのち北京大学で教鞭を執る馬場公彦氏に、中文圏の出版事情についてコラムを連載いただくことになりました。1回目は、新型コロナウイルス感染症のため都市封鎖された中華人民共和国湖北省の武漢市の様子を綴った『武漢日記』出版をめぐる騒動についてです。 方方『武漢日記』がもたらした波紋 4月8日、新型コロナウイルス最初の感染者が出た武漢市で、2カ月半にわたるロックダウン(封城)がようやく解除(解城)された。市内での外出制限はなくなり、公共交通や職場は復旧し、市内にはかつての賑わいが戻り、市民は平穏な日常生活を取り戻しつつある。いっぽうで、2カ月間の籠城生活を綴った記録の公開と出版の賛否をめぐって、ネット上では不穏な激突が起きている。 物議をかもしている記録とは、封鎖開始の2日後の1月25日から3月24日までの60日間、毎日綴ら