世界遺産に自分の文字を刻む、といっても、もちろん落書きをするわけじゃない。漫画家、井上雄彦が、世界遺産サグラダ・ファミリアの扉に刻む文字を書いた、という話だ。 絵ならわかるが、「なんで文字?」「どうしてサグラダ・ファミリア?」と、思う人も多いだろう。なにせその世界的な話は、偶然の出会いから生まれたハプニングなのだから。 そのいきさつを話すには、半年ばかり時をさかのぼらなくてはならない。 井上氏がバルセロナに到着したのは、2011年5月28日の夕刻のことだった。彼に同行したのは、編集者とカメラマンの筆者。たまたまその夜は、FCバルセロナとマンチェスター・ユナイテッドがチャンピオンズ・リーグの優勝をかけた決戦のとき。天才メッシらの活躍でFCバルセロナが勝利すると、街を上げての大騒ぎが始まった。 井上氏は優勝を祝う群衆であふれ返るバルセロナの中心街、グラシア通りを歩きながら、街と人を終始、笑顔で