ローラ・リップマンの短編集「心から愛するただひとりの人」(参照)には、17編もの小編が四部構成で収録されている。ハヤカワ・ミステリ文庫であることからわかるように作品はどれも分類上は推理小説と言ってよく、大半の作品には犯罪や謎解き、探偵といった要素もある。だがミステリーを堪能するには短く、またそうした要素にあまり力点は置かれていない。読後の印象としては純文学に近い。 作品の随所に軽快なユーモアと絶妙な悪意の笑いが満ちていて、読書を堪能させる。 作者リップマンの文章技量にも圧倒される。大半を訳している吉澤康子の文章も読みやすい。だが、小編を次から次へと読み進めることはできない。一編ごとに心の奥に響く。「愛とはなんだろうか」という照れくさい問題について、さらに気の重い、具体的な女性という存在感から、じりじりと再考が迫られる。現代中年女性の、現代中年女性による、現代中年女性のための作品群とでも言い