平川南『律令国郡里制の実情』(上下、吉川弘文館、2014年) 著者は、東北の多賀城の研究所にいたとき、漆桶の蓋紙に使われた奈良時代の反故紙が漆でコーティングされ、赤外線ビデオで透視すれば文字が読めるのを発見した。木簡に次ぐ、発掘文字史料の登場である。これは古代史研究のあり方を大きく変えた。つまり、従来の古代史研究は中央集権というイメージの下に、おもに法制史料を中心に進められ、そのため、国家の地方支配も「国・郡・里(郷)」という地方制度の形式的な枠組にそって論じられてきた。それに対して、著者は、考古学者と協同して、発掘された地域史料を中心に問題を組み立ててきた。本書は、書名が示す通り、古代の「律令国郡里制」の形式的な制度研究に対して、その「実像」をはっきりと対置したものである。 まず最初に取り上げられるのは、七道の制度である。そこでは、諸国の国名の語義が抜本的に見直される。国名は、ヤマトの支