臆せず切り込む研究 格からすると横綱とフンドシかつぎほど差があるのだけれど、岩佐美代子とぼくは考察の対象を同じくする研究者である。鎌倉時代後期から南北朝時代まで、皇族・貴族について史料を調べ、論文にまとめるのだ。 ぼくの専門である歴史学は、人の行動を注視する。国文学は心情に迫り、徹底して寄り添う。繊細な心の動きを的確に解釈していく岩佐が国文学を選択したのは天命であり、業績は他の追随を許さない。 この生きる伝説ともいうべき国文学者の生涯と研究を取材した本書で、岩佐は自著を平易に解説してくれるが、驚嘆すべき質と量である。鎌倉時代の朝廷については、戦前から研究が乏しかった。理由は二つある。一つは「いいくに作ろう源頼朝」、時代の担い手が鎌倉の幕府に変わったこと。だが岩佐は文化の中心はなお京都の宮廷であると見ぬき、和歌の分析を独学で進めた。その結果、京極為兼や伏見天皇など、京極派歌人の存在を発見した