杉本拓がギターを爪弾くかたわらで、佳村萠の吐息は洩れる。即興と作曲が交錯し、漂う空間のざわめきを抱え込みながらふたりが縺れ合うような音楽。あるいは杉本の指先が、そのまま佳村の口唇に触れるようにして生まれる「さりとて」の、新たなアルバムがリリースされた。異様に長尺な「無音」を奏するなどラディカルな試みで知られるギタリストの杉本と、不定形ポップ・ユニット「ほとらぴからっ」などで愁いを帯びた歌声を聴かせる佳村が、「さりとて」の活動をはじめたのは2007年。これまで世に送り出してきた2枚のアルバムがスタジオで録音されたものであったのに対し、本作品は2010年から2013年までに行われたライヴの記録を収めたものである。ジョン・ケージを批判的に継承する杉本の思想が垣間見える「さりとて」の活動を鑑みるに、3枚めにしてライヴ・アルバムが発表されたことは、その音楽的特長を先鋭化させた結果であるように思われる