がんリスクの増加は、原爆被爆者に認められる最も重要な放射線被曝による後影響である。放射線に起因すると考えられる白血病以外のがん(固形がん)リスクの増加は、被爆の約10年後に始まった。1956年に、広島の於保源作医師がこの問題を最初に取り上げ、それが発端となってがん死亡率の総合的な継続的調査が開始され、腫瘍登録制度が広島・長崎両市の医師会により設けられた。 ほとんどの固形がんでは、被爆時年齢に関係なく急性放射線被曝によりがんリスクは生涯を通じて増加する。被爆者の年齢増加に従って、固形がんの放射線関連過剰率も、自然発生率も増加する。2,500 m以内で被爆した人の平均放射線量は約0.2 Gyであり、この場合、がんリスクは標準的年齢別の率よりも約10%高くなっている。1 Gy被曝によるがんの過剰リスクは約50%である(相対リスク= 1.5倍)。 腫瘍登録は広島では1957年、長崎では1958年に
染色体は細くて長いDNA分子から構成されている。細胞が放射線や発がん物質にさらされると、DNAは切れることがあって、その切断端が再結合を生じる際に元とは違う形で修復が起こることがある。こうして染色体の形に異常が作り出されたものを「染色体異常」と呼び、これは細胞分裂の際に観察できる。 染色体異常頻度は細胞が受けた放射線の量に比例して増加し、被曝線量の指標、すなわち生物学的線量計として用いることができる。つまり、あらかじめ血液リンパ球を用いた試管内の放射線照射実験から線量効果関係を求めておき、その結果に基づいて、個人のリンパ球における異常頻度から放射線量を推定するのである。 様々な異常のうち、二動原体染色体は比較的容易に検出できるので、その頻度は生物学的線量計として用いられている。しかし、1個の染色体にある2個の動原体が細胞分裂を阻害するため、二動原体染色体を持つ細胞の頻度は数年の半減期で減少
寿命調査(LSS)死亡率データ(1950-1997年)の解析により、がん以外の疾患による死亡が被曝線量と共に統計的に有意に増加していることが明らかとなった。過剰症例は特定の疾患に限られてはいないようである。DS86結腸線量が0.005 Gy以上の49,114人の中で、18,049人ががん以外の疾患で亡くなっている(血液疾患による死亡はこの中に含まれていない)。循環器疾患がこれらの死亡のほぼ60%を占め、消化器疾患(肝疾患を含む)は全体の約15%、呼吸器疾患は約10%を占めている。 血液疾患を除くがん以外の疾患による死亡の中で放射線被曝に関連すると思われる過剰死亡例数は、150例から300例と推定されている。0.2 Gy(被曝線量が0.005 Gy以上の被爆者49,114人の平均線量)の放射線を受けた人における死亡率は、通常の死亡率より約3%高くなっている。これは固形がんの増加率(30歳で被
がん発生に関する多段階機序は、すべての種類の組織において当てはまると考えられていますが、段階の過程は組織によってそれぞれ違います。成人の体を構成する約60兆個の細胞が一つの細胞(受精卵)から生じますが、コピーされたDNAのすべてに含まれる同じ情報が、様々な精密な制御信号によって、異なる形で用いられ、その結果、様々な細胞、様々な組織ができあがります。従って、ある種の組織にとって必須の遺伝子の発現は、他の組織にとっては重要ではないかもしれませんし、また逆の場合もあります。もっと簡単な例をあげると、細胞を甲状腺として機能させる役割を担う遺伝子があり、これは甲状腺だけで利用され、脳では利用されません。このような遺伝子の発現の違いが、電離放射線によってつくられた傷に対する組織の反応の違い、ひいては発がん性の違いとして現れるものと思われます。 しかし、「組織感受性」という用語は注意して使うことが必要で
血液学および分子生物学における最近の進展により、自然に発生する(de novo)白血病は大別して急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)という4つの病型に分類することが確立されてきた。これらは造血幹細胞の分化過程で癌遺伝子を含む明確な遺伝子異常により発生することが明らかになっている。 過去40年間 ABCC―放影研で実施されてきた広範な調査は、原爆放射線が白血病、特に急性白血病および慢性骨髄性白血病の過剰例を誘発したことを実証してきた。戦後まもなくは原爆放射線の白血病誘発の影響は若年被爆者で明らかに大きかったが、その後これは他の群に比べてより急速に減少した。原爆時に若年でなかった人々では、影響は後になって認められ、長く存続した。 初期の調査のほとんどが、1960年代初期の診断方法およびT65D線量推定値を用いた症例確
放影研の特定の部の調査研究活動については、各部門のページとその研究成果ハイライトをご覧ください。 また、原爆被爆者調査についての Q&Aよくある質問、放射線に関する基礎知識、放影研用語集もご覧ください。
免疫細胞は放射線に弱くて死にやすいことが知られている。これは、成熟Tリンパ球およびBリンパ球(適応免疫をつかさどる長命な白血球)に誘発されたアポトーシス(細胞のプログラム死)や、単球および顆粒球(先天免疫をつかさどる短命な白血球)の前駆体である骨髄幹細胞ならびにナチュラルキラー細胞(先天免疫をつかさどるリンパ球)の致死的な傷害によるものである。 多量の原爆放射線に被曝した人では、成熟リンパ球と骨髄幹細胞の両方が大きな損傷を受けたため、微生物(あるいは細菌やウイルス)の侵入を防ぐ顆粒球やナチュラルキラー細胞が激減した。その結果、多くの人が感染症により死亡した。 被爆後2カ月くらいすると、骨髄幹細胞は回復し、この頃までには感染症による死亡も終息した。1980年代から行われている被爆者についての調査では、単球、顆粒球およびナチュラルキラー細胞の異常は認められていない。つまり先天免疫に対する放射線
放射線とは? イオン化放射線と呼ばれるものには、X線、ガンマ線、ベータ線(高速の電子)、アルファ線(ヘリウムの原子核)、中性子線、陽子線、重粒子線(ヘリウム、アルゴン、窒素、炭素などの原子核で、宇宙から飛来するものもあるし、特殊な装置を使って人工的に作り出すこともできる)などがある。X線・ガンマ線は、光と同じ性質を持った電磁波であるが、可視光よりもずっとエネルギーが高い(波長が短い)。紫外線は可視光とX線・ガンマ線の中間のエネルギーを持っており、細胞に傷害を与える(日焼けでおなじみ)。しかし紫外線はX線・ガンマ線とは異なり、分子や原子のイオン化(電子の喪失)は生じないで励起(電子のエネルギーレベルが上昇する)を生じる。また、影響を受けるのは皮膚表面だけで体の内部には届かない。その他の放射線は負の電荷を持つもの(電子)、正の電荷を持つもの(陽子、アルファ線、および重粒子線)、電荷を持たないも
被爆に関連した小頭症および知的障害の発生増加は、1950年代後半に既に明らかにされていた。線量が0.005 Gy未満と推定された胎内被爆者においては、1,068人中9人(0.8%)に重度の知的障害が見いだされたのに対し、線量が0.005 Gy以上と推定された胎内被爆者においては、476人中21人(4.4%)が重度の知的障害と診断された。この重度知的障害が発生する確率は、被曝線量および被爆時の胎齢(特に発達の著しい段階)と強い関係がある。知的障害の過剰発生は、受胎後8-15週で被爆した人に特に顕著であり、受胎後16-25週で被爆した人ではそれよりも少なかった。一方、受胎後0-7週、または26-40週で被爆した人では全く見られなかった(図1)。また、重度の知的障害に至らない場合でも、受胎後8-25週で被爆した人に、線量の増加に伴う学業成績とIQ指数の低下が認められ(図2)、発作性疾患の発生増加
以下のデータを利用して論文を書かれた場合は、別刷りを1部、下記宛にお送りください。 〒732-0815 広島市南区比治山公園 5-2 放射線影響研究所 情報技術部 図書資料課 E-mail:pub-info@rerf.or.jp 寿命調査 固形がん罹患率データ、1958-2009年 (全固形がん) 原爆被爆者の白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫の罹患率データ、1950-2001年 寿命調査 第14報 がんおよびがん以外の死亡率データ、1950-2003 寿命調査 循環器疾患死亡率データ、1950-2003 寿命調査 がん罹患率データ、1958-1998年 DS02リスク推定:固形がんおよび白血病死亡率データ 寿命調査第13報 がんおよびがん以外の疾患による死亡率データ 寿命調査第12報 死亡率データ、1950-1990年 (第1部: がん、第2部: がん以外) 寿命調査 がん罹患率データ、19
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