掌編小説の名手として知られた星新一の、SF作家としての代表作に『声の網』という長編(連作短編)がある。現行の角川文庫版の解説で恩田陸氏が書いているとおり、初出が1970年とは思えない今日的な作品だ。 いま風の語彙でまとめれば、AI+ビッグデータがあらゆる国民の「秘密」を握り、それを公開するぞと脅して人々の行動を操ることで、究極の管理社会が生まれるという寓話である。今日との違いはインターネット以前のために、情報収集と脅迫が「電話」の盗聴を通じてなされることだけだ。 どんな人にも恥ずかしい失敗、性愛にまつわる挿話、自分でも美しいとは思わない怨恨など、法に反してはおらずとも「心を許した人以外には言えない秘密」はあるものだ。それが社会全体を挙げて当人を攻撃し、服従させる道具へと変じたときの怖さを、以下のような文明評論とともに『声の網』は描いている。 「むかしの社会は、なんによって成立していたのだろ