作家・武田泰淳の『ひかりごけ』(1954年)は、43年に知床半島で起こった「遭難船人食い事件」をモデルにしている。ディティールに違いはあるものの、極寒の中で船が遭難し、陸地に流れ着いた生存者が死者の肉を食べたという流れは同じだ。小説は高い評価を受け、1992年には三國連太郎主演で映画化された。一方で、実在の船長は助かった当初こそ「不死身の神兵」と呼ばれたが、事件の発覚で1年間の服役生活を送り、出所後も自らを責め続けた。いったいなぜ事件が発覚したのか。 (「新潮45」2006年2月号特集「明治・大正・昭和 文壇13の『怪』事件簿」掲載記事をもとに再構成しました。文中の年齢、年代表記等は執筆当時のものです。文中敬称略) *** 【レア写真】作家・武田泰淳 『ひかりごけ』発表から7年後と18年後の姿 大シケで消息を絶った徴用船 北海道・知床半島の突端近くにペキンノ鼻という奇妙な地名がある。もとも