鼓直(つづみ・ただし)さん。4月2日、89歳で死去=2015年、須藤瑞氏撮影、大竹晴日虎氏提供 大学紛争が収まった頃、東京外国語大大学院で、教授たちの反対を押し切ってラテンアメリカ文学を専攻することになり、必要な講師として鼓直先生を招いてもらった。授業は学部と共通のテキスト講読だったので僕にとっては終了後に喫茶店で話し込むことこそが授業だった。日吉、さらに引っ越し先の八王子のお宅に伺い、そのまま泊めていただいたこともあった。 延々と続く一対一の対話は場所が新宿のバーでも変わらなかった。あのちょっと照れたような穏やかな口調を思い出す。 スペイン語文学への関心は本国が中心で、『ドン・キホーテ』やロルカがもっぱら対象だった当時、先生は『百年の孤独』と取り組んでいたはずだ。一九六七年にグアテマラのアストゥリアスがノーベル文学賞を受賞したものの、革命文学の作家と見なされていた。先生はその『緑の法王』