歴史にも残っていないような遠い昔、かつて人類が火を手にしたとき、わたしたちは煙のススとともに、炭素の黒を目の当たりにしたはず。そして、ときは21世紀、人類が到達した究極の黒は、やはり同じくあの炭素でできていました。人類はどこまで完全なる黒に近づくことができたか、その決め手は森のように垂直に並べたカーボンナノチューブにありました。 図は論文[1]より 赤でも、青でも、緑でもなく。あらゆる波長の光を反射せず、そのためいかなる色とも混じろうとしない孤高の存在。それが、黒の本質と言われています。 例えば、カーボンブラック。かつては複写紙としても使われていました。確かに黒く見えますが、いくぶん光の照り返しがあるため、どんな色の光も反射しないで吸収するという意味では、完全な黒とはほど遠いでしょう。無秩序にただ炭素原子がそこにあるだけではダメなのです。 炭素の同素体であっても、カーボンナノチューブとは、